ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「シティ・マラソンズ」/文藝春秋刊

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「シティ・マラソンズ」。

株式会社アシックスのWEBサイト及びモバイルサイトで実施した期間限定キャンペーン「マラソン
三都物語~42.195km先の私に会いに行く~」のために三人の作家が書き下ろしたものを
まとめたシティマラソンを題材にした中編集。寄稿作家:三浦しをんあさのあつこ近藤史恵


↑のあらすじに書いた通り、三人の女流作家による三都市を舞台にしたシティ・マラソン集。
ラソンを題材にしているだけあって、三人三様疾走感溢れる快作揃いでした。できればあと
二人くらい追加してもうちょっとアンソロジーとしての読み応えがあると良かった気もしましたが。
同じシティマラソンを題材にしていても、それぞれに舞台になっている都市が違うのでマンネリ
という感じもなく読めたのは良かったな。以前にもどこかで書きましたが、私の友人が市民マラソン
に出てはかなりいい成績を残している市民ランナーなので、身近な題材ということもあり、楽しく
読めました。一番好きだったのはしをんさんのお話かな~。でも出来れば、この続きが読みたい
気持ちになりましたが(苦笑)。舞台としては、ラストのパリが一番好きかな。パリマラソン
当の友人も参加したことがあって、話を聞いたことがあるし。私自身大好きな街なので。
青春小説を書かせたら一流って作家が三人揃っているので、三人三様、シティマラソンという題材を
しっかり自分流に噛み砕いて爽やかに読ませる作品に仕立てていると思います。いろんな思いを
乗せてそれぞれの都市を疾走するランナーたちの姿を読んでいたら自分も走ってみたくなったり
・・・はしなかったんですけどね(苦笑)。だって、長距離苦手なんだもん^^;


以下、各作品の感想。

三浦しをん『純白のライン』
不動産屋に勤める阿部広和は、社長に頼まれて、社長の娘の真結が出場するニューヨークシティ
ラソンに出場し、真結と彼女の外国人の彼氏の動向を探ることになった。社長は娘の真結を溺愛
しており、社長から目をかけられていた広和は入社当時から彼女のお目付け役を任されて来たのだ。
そして、広和は学生時代に挫折した苦い思い出のあるマラソンを再びやる羽目に・・・。

主人公阿部とお嬢さんの関係が良かったですね。阿部をニューヨークに行かせるように仕向けた
本当の人物の計らいに嬉しい気持ちになりました。二人がこの後にどうなるのかが気になるなぁ。
阿部は自惚れてたと自戒していたけど、どう考えてもお嬢さんが本当に好きなのは阿部の方だと
思うけどな。10歳差なんて、お嬢さんには関係なさそうだしね。

あさのあつこ『フィニッシュ・ゲートから』
スポーツメーカーのシューズオーダーメイド部門に勤める南野悠斗は、十三年前共に同じ高校の
長距離選手として陸上部にいた冠城湊から突然電話で『東京マラソンを走ることになった』と
告げられる。過去に苦い思い出を抱えていた悠斗は、湊に、『自分が作った靴で走って欲しい』
と願い出るのだが・・・。

この作品だけ、マラソンを走る人物が主人公ではなく、その友人というお話。自分の挫折の分も、
友人の重い過去のことも、すべての思いを自分が作る靴に込めて、その靴を履いて走って欲しい
という主人公の思いが伝わってきました。東京マラソンは、今や東京都最大のイベントの一つと
云えるくらい、大きな大会になりましたよね。応募者数もものすごい数で、倍率もすごいらしいし。
一度生でみんなが走るところを見てみたいものです。東京タワーを横目で見ながら走るのって
不思議な気分だろうな~。

近藤史恵『金色の風』
バレエで挫折した夕は、すべてを吹っ切るために、家族の反対を押し切ってパリに語学留学に来た。
しかし、慣れない街での生活は最初から思うようには行かなかった。そんな中、夕は美しいゴールデン
レトリバーと街中をランニングしているすらりとした女性と出会う。街中で度々出会う女性と犬の
コンビの美しい走りに惹かれた夕は、自分でも走ってみようと思い立つ。そして、留学の終わりに、
パリマラソンに出場することに・・・。

パリのあのごつごつした石畳をフルマラソンで走るなんて、考えただけでも足を痛めそうですが、パリ
ラソンっていうのはかなり有名な大会らしいですね。確かに世界的に有名な観光地を巡るコース
を走るのであれば、一気に観光しちゃった気分になれそう(笑)。それにしても、突然マラソン
始めていきなりフルマラソンを完走するって、出来るものなのか?^^;まずは10キロ、慣れて
きたらハーフ、それが慣れてもフルマラソンってきついって聞くけどなぁ。しかもあのパリの悪路
を・・・なんとなく、夢物語に思えなくもないけど、のんびり走れば平気なのかなぁ。まぁ、
バレエ体型なら贅肉はないからランナー向きの身体なのかもしれないですけどね。



どの作品の主人公も一度過去に挫折を経験しています。その挫折があるからこそ、走ることに
価値が見いだせるのかもしれません。42.195キロの果てのゴールに彼らを待ち受けている
ものは何なのか。幼い頃のマラソン大会なんて苦しさしか感じなかったけれど、こういう作品を
読むと、走ることは苦しいだけじゃないと気付かされます。なぜ今市民ランナーたちがこんなに
増えているのか。その答えの一つが、ここにあるのかもしれないと思いました。