ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

西澤保彦/「幻視時代」/中央公論新社刊

イメージ 1

西澤保彦さんの「幻視時代」。

文芸評論家の矢渡利悠人、彼の高校の後輩にして小説家のオークラ、編集者の長廻の三人は、立ち
寄った写真展で、ある一枚の写真の前に釘付けとなった。18年前の大地震直後のその画面には、
瀕死の恩師・白州先生と大学生の悠人、そして一人の少女が写っていた。少女の名は風祭飛鳥。
悠人の同級生であり、淡い初恋の相手…。しかし、大地震の4年前に起きた「女子高生作家怪死事件」
の被害者で、この時すでに死亡していたはず―!?心霊写真なのか?いや、飛鳥が生きているのか!?
22年の時を超え、悠人ら三人が超絶推理の末、辿り着いた迷宮入り事件の全貌と、驚愕の真相
とは!?書き下ろし長篇ミステリ(あらすじ抜粋)。


西澤さんの最新刊。タイトルとシュールな表紙から、衒学的な不条理小説なのかとちょっぴり
身構えてしまったのだけど、全く違ってました。西澤さんにしては、えらく全うな本格テイスト
のミステリー。冒頭でいきなり心霊写真が出て来て、もしやホラーかファンタジー的な結末に
なるのか?とも思ったのだけれど、それもきちんと論理的に説明がついて、なるほど、こういう
着地点だったか、と感心させられました。ただ、幽霊かと思われた飛鳥の死の真相にはちょっと
ガッカリしたところもあったのですが。こういう真相のつけ方って好きじゃないんですよ。ただ、
その真相を導く為に、きちんと伏線が張られているので、それなりに納得は出来たんですけどね
(じゃあ、いちいち文句を言うなよって怒られそうですが^^;)。
特筆すべきは、今回珍しくレズ要素がない!!って、そこかい、おい、とズッコケられそうですが、
ここ最近の西澤作品には本当に珍しいことなんですよ。確かに、悠人の母親が学生時代に書いた
『境界線』の中には出て来ますけどね。ただ、それも別に作中作として紹介されてる訳じゃなく、
単にストーリーが紹介されているだけなので。
変にSF的な要素もないので、今回は本当に普通のミステリ小説を目指した作品で、それはそれで
ちょっとビックリしちゃったのでした(西澤作品はいつも『変化球』というイメージがこびりついて
いるので・・・^^;)。
でも、読みやすいし、普通に面白かったです。主人公の悠人が憧れる風祭飛鳥の人物造形は
いかにも西澤さんらしい感じがしました。作家としての天才的な才能を持つ美少女だけど、性格は
あっけらかんとあけすけな所とか。でも、彼女の『一度失敗したらもう終わり』と思い込んでしまう、
思い込みの激しい性格、という設定が最後になってあんな風に効いてくるとは・・・。






以下、ネタバレあります。未読の方はご注意ください。
















でも、飛鳥の死の真相には少々首をかしげてしまいます。なぜ、自殺するのに自らを包丁で
突き刺した後、わざわざ家の中を転々と歩きまわったのか。絶望して狂乱状態になって、家の中を
歩きまわったのかなぁ。自分を刺した後で家に火を点けたというのも、なんか普通、逆じゃないか
って思っちゃうんですけど。だって、先に包丁で刺しちゃったら、もう動けなくて火なんか
点けられる状態じゃなくなるかもしれないじゃないですか。そうしたら、悠人の母親の原稿は
そのまま残されてしまう訳で。それとも、まず原稿を焼いてしまった後で包丁を突き刺し、
その後で他の場所に火を点けたのか・・・。うーん、何かすんなりと納得がいかないような。
はっきりとその自殺の場面が描写されている訳ではなく、悠人たちの推理だけで真相が語られて
いるので、実際飛鳥がどんな風に自殺したのかはわからないままなんですよね。そこはちょっと
消化不良だったかな。最後に前日の飛鳥の中で出来心が芽生えるシーンが再現されていますが、
どうせなら自殺のシーンも再現して欲しかったような・・・それだと作品がつまらなくなっちゃう
かしらん。うーん。
相変わらず、細かいところにツッコんですみません・・・。














ま、少々飛鳥の死の真相には疑問を感じないでもなかったのですが、基本的にはとても
面白く読みました。終盤の、飛鳥の死に関する悠人たちの二転三転するディスカッションも
面白かったですし。とうに亡くなっている悠人の母親が書いた『境界線』が、時代を超えて
幾人もの人生を左右させてしまうなんて、何とも皮肉な感じがしました。でも、死して尚、人に
影響を与えてしまうところも、作中から伺える彼女の人物像からなんとなく納得出来てしまったの
でした。

それにしても、この表紙絵はなんともシュールでキモチ悪くてイイですねぇ(変?)。作品と
合っているかと言われると、ちょっと微妙な感じもしますけれどね^^;