ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大倉崇裕/「白虹」/PHP研究所刊

イメージ 1

大倉崇裕さんの「白虹」。

ある出来事がきっかけで、警察を辞め、シーズンになると北アルプスの山小屋でアルバイト生活を
送っていた五木。ある日、持ち前の勘の鋭さから一人の遭難者の命を救うのだが、その人物が後日
殺人を犯して自らも事故死したことを知り、衝撃を受ける。五木は、被害者となった女性の父親から、
犯人の命を救ったことを非難される。しかし、後日、被害者の父親から五木の携帯に謝罪の言葉を
述べた留守電が入っていた。父親は、その留守電を入れた直後、病死していた。父親は、娘の死に
ついていろいろ調べていたらしい。五木は、その遺志を継いで、事件の真相究明に乗り出した――
傑作長編ミステリー。


大倉さんの山ミス第三弾。山岳ものってそんなに好きなジャンルでもないのですが、大倉さんの
山岳ミステリはほんとに面白い。今回もリーダビリティがあって、一気に読まされてしまいました。
ある事件がきっかけで警察を辞めたフリーターの五木が主人公。もともと警察官としても勘が
鋭く優秀だっただけあり、山小屋でもアルバイトにしては頼りにされている存在。そんな元警官
という経験が功を奏して、五木はある一人の登山者の命を救います。けれども、そのことが発端
で、後にとんでもない事件が起きてしまう。そして、五木は、ある人物の遺志と責任感からその
事件の真相を探るべく山を降りることになる、というのが大筋。山を降りて事件究明の為に一つ
一つ過去の事実を探り、一歩づつ真相に近づいて行く過程が緊迫感があって良かったですね。
外界でのシーンが多く、今までの作品よりも山でのシーンが少なめではありますが、それでも
十分、山の厳しさや雄大さは伝わって来ました。ただ、自分が山に登りたくなったかというと、
全くそういう気持ちにはなれないのですが^^;寒そうだし疲れそうだし、絶対やだよー(><)。
でも、山が好きな人って、そういうのを超越したところに、魅力を感じるんでしょうねぇ。
一度登ると病みつきになるみたいだし。でも、私は初日の出の為に登る高○山だけで、いっぱい
いっぱいです・・・。あれでさえ、死ぬほど苦しい思いして登ってるのに^^;;でも、本書で
重要な役割を担う、ある山の写真のような光景は生で見てみたくなりましたね。写真家なんかには
たまらない被写体って感じですね。この山は実在するわけじゃないですよね?実際、こういう
光景が見られる山があったりするんでしょうか。まさに自然が創りだす造形美。

五木を取り巻く脇役のキャラ造形も良かったですね。特に、山岳警備隊の米村さんは渋くて
かっこ良かったなぁ。出番が少ない割に、印象の強い人物。もちろん、五木が働く山小屋の仲間
たちもいい人ばかりですし(約一名を除いて、ですが)、五木が事件の捜査を通じて出会う人々
も、好印象の人が多かったです。残念なのは、被害者の女性の生前の姿が描かれなかったこと。
みんなから好かれたとても素敵な女性だったのが伺えるだけに、彼女がどんな人物で、何を
考えて、どんな風に名頃と恋愛していたのか、もっと知りたかったな・・・。







以下、ネタバレ気味です。未読の方はご注意ください。












直前のミスリードにまんまと引っかかって、真犯人のことは全くノーマークでした。まさか、そう
繋がるとは・・・。っていうか、この展開は、なんとなく、前の作品を踏襲しているような気が
しないでもないんですが・・・^^;意外ではありましたが、後味は悪いですね。でも、ラストで
瀕死の真犯人を背負って助ける為に一歩を踏み出す五木がかっこ良かったです。裏切られても、
やっぱり命を助けたいと願う人には違いなかったのでしょうね。きっと、犯人はこの事で五木の為
にも改心してくれるでしょう。

ところで、被害者の父親の死因は、結局やっぱり心臓麻痺ってことなんでしょうか。途中、意味深に
殺人だったのでは、みたいに匂わせてましたが・・・あれ、読み逃した?^^;;













五木のキャラは、クールな面も情熱的な面も両方持っていて、なかなか好感が持てました。仕事に
対しても真面目ですし。彼は今後どんな風に生きて行くのでしょうか。山小屋の不安定なアルバイト
生活を続けるのか、山岳警備隊として誰かの命を助けて行くのか。彼には後者の方が似合っている
気はしますけれどね。結局、どちらにしても、山から離れられないのでしょうね(苦笑)。

山岳ものがお好きな方にはもちろん、普通にミステリーとしても楽しめる一冊です。
硬質の山岳ミステリって感じでしょうか。面白かった。オススメです。