ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

加藤実秋/「アー・ユー・テディ?」/PHP文芸文庫刊

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加藤実秋さんの「アー・ユー・テディ?」。

「ほっこり」を愛する和子は、お気に入りの雑貨を並べたカフェを開くのが夢。代官山のフリマで
ひと目惚れしたクマのあみぐるみを買って帰ると、なんとクマには殉職した刑事の魂が宿っていた!
事件の捜査中、崖から落ちて死んだのだという。かわいいあみぐるみからオヤジ刑事の魂を追い
出すため、和子は、いやいや真相究明に乗り出す!珍妙なコンビが軽快なテンポでお届けする爽快
エンタテインメント(あらすじ抜粋)。


わぁい。面白かった!インディゴシリーズ以外の加藤さんの作品の中では一番好きかも、コレ。
あまり馴染みのないところから出てるし(しかも文庫)、前回読んだ作品がイマイチだったから、
実は大して期待していなかったのだけど、いい意味で裏切られました。まず、設定からし
面白い。主人公の和子がフリマで手に入れたクマの『あみぐるみ』には、死んだ刑事の霊が
取り憑いていて、その刑事が追っていた事件を和子が代わりに追う羽目になる、という、
ちょっとファンタジーテイスト混じりのミステリ。和子は、クマのあみぐるみと共に事件の
真相を探ります。あみぐるみに取り憑いた刑事の康雄のキャラがいい。愛らしいあみぐるみ
姿から繰り出される傲岸不遜な言動やオヤジ発言とのギャップが可笑しい。でも、康雄さんの
言葉は、確かに若い和子にとっては鬱陶しいものでしかないかもしれないけれど、人生の場数を
踏んで来た人間ならではの重みがあって、大切なことばかりで胸に響きました。それとは別に、
普段の会話の中の、和子と康雄のノリとツッコミみたいなコミカルなやり取りが楽しかったです。
和子は、24歳にもなって仕事が続かない典型的なダメニートのくせに、可愛いものが大好きで、
物欲だけは立派で、カードローンも限度額いっぱい、という、社会性ゼロのどうしようもない
女の子。あみぐるみに宿った康雄から頼まれた探偵仕事も、最初はまったくやる気がなく、
バイト代欲しさに嫌々やっている状態でした。でも、康雄さんと共に事件の真相を追い、
様々な人物と触れ合って行くうちに、次第に大事なことを学び取って変わって行きます。
事件の解決と共に、彼女も最初とは別人かと思うくらい、成長を遂げるところが爽やかでした。

脇役キャラがまたどの人物も個性的で良かったですね~。特に、彼女の家族はみんな素敵だった。
エコに拘るお母さん、ゲップで意思表示をするお父さん(これはどうかと思ったが^^;)、
ヘヴィメタマニアのお兄ちゃん。ヘンテコな家族だけど、みんな心があったかくて、素敵な
家族だなぁって思いました。特に、ラストで和子があるお願いをした時に見せた家族三人の
粋な態度にほろり(三人三様でしたが^^;)。貧乏でも、こんなあったかい家族がいる家庭って、
絶対幸せだと思うな。お母さんが、働いていない和子に毎月2万の生活費を入れろと要求してきた
理由にもじーんとしました。子供の幸せを願わない親なんていないんだよね・・・(涙)。

あと、イケメンなのに電波系(笑)の冬野さんのキャラも良かったですね。身近にいたら
鬱陶しいでしょうけどねぇ、こういう人・・・。でも、和子とは案外お似合いなんじゃないの
かな~。和子も、鬱陶しいと思いながらも、ヘンテコな話に付き合ってあげちゃったりして
(右の耳から左の耳って感じでしょうが(苦笑))。

事件の真相はさほど驚くものではなかったのですが、事件そのものよりも、事件が解決した後の
和子の行動の方がこの作品で作者が一番書きたかった部分なんじゃないでしょうか。彼女の成長
が伺えるエピソードに、こちらまで嬉しくなりました(一番嬉しかったのは、康雄さんでしょう
けれどね)。

康雄さん(ミル太)の最後は、想像していただけに、悲しかったのですが・・・最後に、とっても
嬉しいサプライズがあったので、気持よく読み終えられました。これは続編書いて欲しいなぁ。
毎回ぬいぐるみ変えてね(笑)。

あと、ラストでまさかのチャンネルファンタズモとのリンクが判明。そ、そうだったのかぁ。
確かに、あれも霊とかUMAが関わる話でしたもんね。まさかそんなところに繋がるとは思いません
でした(笑)。こういう繋がりもちょっと嬉しい。そういえば、あっちも続編書いて欲しいな~。


加藤さんらしく昭和のオヤジ臭も漂わせながら(笑)、とってもキュートでちょっぴりほろりと
させてくれる、楽しいエンタメミステリーでした。面白かったです^^