ミステリ読書録

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乾ルカ/「六月の輝き」/集英社刊

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乾ルカさんの「六月の輝き」。

戻りたい──いちばん美しい季節の光の中へ
同じ誕生日、隣同士の家に生まれた美奈子と美耶。互いに「特別」な存在だった。11歳の夏、
美耶の「ある能力」がふたりの関係に深い影を落とすまでは……。純粋な想いが奇跡をよぶ、
「絆」の物語(あらすじ抜粋)。


乾さんの最新刊。本当にコンスタントに書き続けていらっしゃいますね。そして、どの作品も
こぞってクオリティが高い。デビュー作で感じた才能が、一作ごとに着実に開花して行って
いるのを、読むたびごとにひしひしと感じて嬉しくなります。本書は、ここ数作の切ない系
作品の流れを汲んだ痛みと切なさ、優しさとノスタルジーが渾然一体となった感動作。本書も
とても心に響く作品でした。
軸となるのは、小学校の同級生である美奈子と美耶の友情。美耶のある能力がきっかけで、とても
仲の良かった二人の友情は壊れてしまいます。美奈子は美耶を恨みながらも、美耶の存在を
意識せずにはいられない。美耶は、美奈子に罪悪感を覚えながら、美奈子への思慕を止められない。
美奈子視点のお話は冒頭と最後に出て来るのですが、美耶視点のお話というのはないので、彼女
の行動から類推する以外にないのですが、彼女の気持ちが痛いくらい行間から伝わって来て、
本当に読んでいて痛々しくて切なくて、二人のすれ違いが悲しくてなりませんでした。一作
ごとに視点を変えた連作形式になっていて、美耶の『能力』を巡って、それぞれの人生が
変わって行く様子が語られます。どのお話の主人公も、美耶の能力を頼って、彼女に縋りつく。
美耶はとても心の優しい子だから、自らの命を削ってでもその要望に応えようとする。けれども、
結局、彼女の能力は一時的なものでしかなく、その能力によって彼らが救われることはありません。
美耶はそれがわかっているのに、自分の身が弱っているのも顧みずに、能力を使おうとする。
それは、美奈子にお願いされるから。美奈子の頼みだけは、美耶は断れないのです。別に
美奈子に脅されている訳でも、そうしなければいけない責任がある訳でもなく、ただ、そこに
あるのは美奈子への友情なのです。多分、美奈子から見ると、美耶がそうするのは負い目がある
からだと思っていたのかもしれないけれど、最終話まで読むと、そうではないことがわかります。
美耶はただ、美奈子とまたいつかのように一緒にいたかった。最終話は読むのがとても辛かった
です。美奈子のために、美奈子の母親に最後に笑って欲しいが為に、ボロボロになるまで力を
使った美耶の想いが痛くて切なくて、悲しくなりました。二人に元通りになって欲しいと願う
美奈子の母親の願いも、また。

最終話の、美奈子がリコーダーを吹きながら美耶の家を目指すシーンに、胸が締め付けられる
ような気持ちになりました。不器用な指で、必死にリコーダーを吹いて美耶に聴かせようとする
美奈子の想いにも。二人の友情は、とてもとても回りくどいものだったけれど、最後にまた
しっかりと結ばれて揺るぎないものになったと思う。美耶は、きっと幸せの中で笑って逝けた
のだと信じたいです。彼女の最後の表情がそれを物語っているとも思いますしね。

二人が同じ日に生まれて同じ日に退院したというエピソードが大して重要でなかったことは
ちょっと拍子抜けだったのですが(ミステリだったら、そこで間違いなく取り違えとかの展開に
なっていくと思うので^^;)、この二人が出会うべくして出会った運命の二人だったという
事実を強調したかったのでしょうね。

結局、美耶に備わった能力の意味は何だったのでしょうか。神はなぜ、彼女にそんな試練を
与えたのか。美耶にとっては残酷なだけの能力を。それでも、そのことを恨むでもなく静かに
受け入れる美耶のことが、読んでいて愛おしくてなりませんでした。もっともっと、彼女には
幸せになって欲しかったなぁ・・・。

今回もさらりと読めるけれど、とても心に響く一作でした。文章がまたとても素敵だった。
ほんと、巧くなったなぁ、乾さん。今後、各賞レースの常連になって行くんじゃないかな。
装幀も素敵だなぁ。とても痛くて切ないけれども、冷たさの中にも不思議と温かさがあって、
静かに余韻の残る良作でした。