ミステリ読書録

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桂望実/「嫌な女」/光文社刊

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桂望実さんの「嫌な女」。

男をその気にさせる天才 すべての女を敵にまわして、自由に、奔放に、したたかに生きる“鉄の女”
と“性悪女”を描く、桂望実二年ぶりの長編!トラブルを重ねる夏子、その始末をする徹子。
特別になりたい女と平凡を望む女。それでも……私は、彼女を嫌いになれなかった(あらすじ抜粋)。


久しぶりの桂さんの新作。タイトル通り、嫌な女が出て来てイヤ~な気分で読む作品なんだろうな~
と思いながら読み始めたのですが、これがそうとも言えるし、そうとばかりも言い切れない作品
でして。確かに、嫌な女は出て来るんですよ。でも、読んでるうちに、なぜか彼女がそこまで
嫌な女に思えなくなって来るから不思議なのです。多分、普通に出会っていたら、間違いなく
嫌悪感しか覚えないタイプの女性なのですが、彼女を憎みきれず、その行動をどこかで容認して
しまう主人公の視点から語られることで、次第に彼女の行動が痛快に感じて来てしまうのです。
やってることは詐欺というれっきとした重罪で、酷いことばかりなのにも関わらずね。この辺りは、
非常に上手い書き方だなぁと思いながら読んでました。今まで、桂さんの作品っていうのは、
ストレートに痛快でわかりやすい作品が多かったと思うのですが、今回の作品はそういうのとは
また一味も二味も違って、なんだか作家として一皮向けたなぁって感じがしました・・・なんか、
エラそうな感想ですが^^;

一話目で弁護士である主人公の徹子と、その遠戚の夏子は共に二十代。そこから、一話進むごとに
数年が経って行き、最終話では二人は七十代。波乱に満ちた夏子の人生と、ことあるごとにそれに
巻き込まれ、傍観しながら自らの弁護士道を突き進んで行く徹子の人生、二人の女性の人生が
ぎゅっと一冊に凝縮されていて、たくさん身につまされるシーンがありました。二人の女性だけで
なく、夏子の詐欺行為の犠牲になった被害者たちや、徹子を取り巻く人々など、脇役たちの人物
造形も一人一人がきっちり書きこまれているので、共感しやすく、感情移入しながら読むことが
出来ました。一話ごとに数年分の時間が進んで行くので、一冊の本の中に、たくさんの人々の人生
の縮図が詰まっているような感じがしました。
どんなに嫌なことがあっても、辛い出来事に遭っても、それを受け入れてしまえば楽になる、という
徹子先生の考え方は、なんだか非常に胸にずしんと来ました。それを受け入れられないと足掻くのが
人間なんでしょうけれど。どこか諦めにも似た考え方にも思えるけれど、逆に考えると非常に
ポジティブとも云えるし、深いなぁと思いました。
主人公の徹子は、始めはどんなことに対してもドライで他人に関心がなく、クールな印象でしたが、
彼女が弁護士の仕事を続けて行くうちに、いろんなことを学び、成長して行くことで、その印象が
次第に人間味があって温かみのあるものに変わって行きました。特に、同じ弁護士事務所で働く
みゆきさんとの友情関係がとても良かった。だからこそ、最終話が切なくて、悲しくて。みゆき
さんの徹子を心配する手紙の文言にこちらまで涙腺が緩んでしまいました(涙)。年をとっても、
こういう友情関係が続いているって、本当に素晴らしいことだな、羨ましいなって、心から思い
ました。私が七十になった時、みゆきさんみたいな存在はいるのかな。いたらいいなって、思う。
徹子にとっての夏子みたいな存在だけは勘弁ですが^^;
夏子は、結局作中では人から語られる像でしか出てこないので、なんとなくリアリティがない存在
って印象があったのですが、ある意味アイドル的な、偶像的な印象を強めるのには、こういう書き方
で良かったんだろうなって思いました。でも、彼女の息子の扱いがちょっと中途半端だったのは残念
だったかな。弁護士にならずに、結局違う道に進んだというのも、一人の人間の人生としては、
リアリティがありますけどね。大抵の人間は、彼のように、志半ばにして他の道に路線変更して、
それなりの人生を歩んで行くのでしょうからね。

女詐欺師と、遠戚だったが為に、彼女の弁護を引き受けざるを得ず、彼女の人生を見守る羽目に
なった女弁護士、二人の女性の強かな人生を描いた快作です。二十代から七十代、どの時代だって、
彼女たちは必死に自らの人生と向きあって逞しく生きている。夏子の懲りない詐欺行為には呆れ
つつも、徹子同様、次はどんなことをやらかしてくれるのかな、とちょっぴりワクワクしている
自分がいました。多分、結局人生の終わりまで、彼女は詐欺を働きながら、輝いて生きるんだろうな。

タイトル通り、嫌な女のお話なのは間違いありませんが、読後は清々しい気持ちになりました。
とっても面白かった。県庁の星に代わる、桂さんの代表作になるんじゃないかな、コレ。
力作でした。