ミステリ読書録

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スティーヴン・キング/「スタンド・バイ・ミー 恐怖の四季 秋冬編」/新潮文庫刊

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スティーヴン・キングスタンド・バイ・ミー 恐怖の四季 秋冬編(山田順子訳)」。

行方不明だった少年の事故死体が、森の奥にあるとの情報を掴んだ4人の少年たちは、「死体探し」
の旅に出た。その苦難と恐怖に満ちた2日間を通して、誰もが経験する少年期の特異な友情、
それへの訣別の姿を感動的に描く表題作は、成人して作家になった仲間の一人が書くという形を
とった著者の半自伝的な作品である。他に、英国の奇譚クラブの雰囲気をよく写した1編を収録
(あらすじ抜粋)。


今月は海外モノを読む余裕がないかも、と思っていたのですが、いろいろと事情がありまして、
たまたま行った古本屋で目についた本書に白羽の矢が立つことになりました。今更?と思われる
方が多いかもしれませんが、実はワタクシ、あの有名映画の原作がキングだなんて全く知らずに
いまして。古本屋で本書を見つけた時、キングが原作だと知ってかーなーり、驚いたのでした。
リヴァー・フェニックスが輝いていたあの映画は、私も多分十代の頃に観てとても感銘を受けて
大好きな作品だったので、原作はどんなお話なんだろう、と興味を惹かれて(しかもキング)、
ちょうど海外モノを読まねば、と思っていたところだったこともあって、手にとってみたのでした。

実は、映画は大好きだったけれども、観たのがあまりにも昔で、少年たちが線路をたどって旅を
する青春映画くらいの記憶しかなかったので、原作を読んで勘違いしていた部分があまりにも
多いのでビックリしました。といっても、映画が原作にどれくらい忠実に作ってあるのかは
わからないので、映画では変えられているところもあるのかもしれませんが。一番大きいのは、
彼らが旅をする理由。私の中では、自由や冒険を求めて、みたいな、いかにもジュブナイル的な
ものだったような気がしていたのだけど、実際は『行方不明になっていた少年の轢死体を見に
行く為』なんですねぇ。いやー、ビックリ。いや、映画でもそうだったかもしれないけど、
全然覚えてなかったもので^^;わざわざそんな気味の悪いものを見に行く為に、延々と歩き
続けたんかい彼らは、と思わずツッコミを入れたくなりました^^;
でも、映画同様、四人の少年たちが紆余曲折しながら目的地を目指す過程には、時にハラハラ、
時にワクワクドキドキしながら読めました。基本的には不良っぽい、学校だと問題児グループに
いるような少年たちなので、タバコを吸ったり、賭け事をしたりと、12歳の少年の行動としては、
少々顔を顰めたくなるようなこともしています。でも、12歳の少年が精一杯背伸びしてる感じが
なんだかかえって微笑ましいような気持ちにもなりました。

彼らの旅の中で印象に残ったシーンは、ゴミ捨て場の管理人マイロと、彼の飼い犬チョッパーとの
騒動。噂では物凄い獰猛で、狙った人物を咬み殺す程の猛犬とされるチョッパーが、実際は単なる
中型の雑種犬だったってところはズッコケましたが(^^;)、少年たちが性悪なマイロをやり
過ごすところにはスカっとしました。
キングらしく怖気を覚えたシーンは、少年たちが川で遭遇した蛭のくだり。想像するだけで
顔から血の気が引きました・・・。うう。怖いよー(><)。特に、ゴードンの身体の中で一番
大事なところに最後まで食らいついていたアイツに関しては・・・これは男性にしかわからない
苦しみなんでしょうけれど^^;気の毒としか言い様がなかったです^^;

キングが上手いなぁと思うところは、彼らの旅には最初から常に不穏な空気が流れていて、その後の
彼らの運命をそこはかとなく暗示させているところ。彼らの旅の始まりに、四人でコイン投げをする
シーンがあるのですが、その結果が皮肉にも、見事に彼らの未来への符合になっている。そこで
唯一『表』を出した語り手のゴードンがなぜその時に『怖い』と感じたのか。彼らの未来の明暗を
分けたのは、もしかしたら、その時のそのコイン投げから始まっていたのかもしれない、と思わせる
伏線の張り方に感心しました。ただ、ゴードン以外の三人のその後の姿に関しては、できれば知りたく
なかった、というのが正直なところではあったのですが。

四人の少年の中では、クリスが一番お気に入り。一番冷静にいろんなことが判断できて、頭がいい
って印象。たまに12歳らしい弱さも垣間見せたりして、ナイーブな面もあって。多分、映画では
この役をリバー・フェニックスがやっていたのではないかしら?
彼らが旅を終えて家に帰る途中で、クリスが、ゴードンは自分たちとは会わなくなっていくだろう
と語りかけるシーンに胸が切なくなりました。
彼はゴードン自身が気づいていない未来のことも見透かしていて、それをとても羨ましいと思って
いるのもわかったから。12歳にして未来を諦観しているクリスがなんだか可哀想になりました。
その後の猛勉強っぷりからも、彼が自分を取り巻く環境に満足が行かず、もっと上を目指したいと
思っていたことが伺えます。けれども、その結果はとても皮肉なものでしたが・・・。せめて、
クリスだけはコインの運命から免れて欲しかったのにな(T_T)。

それにしても、この作品って、四部作の中の一作だったんですねぇ。こうなったら春夏編も
読まなくちゃ。
冬編である同時収録の『マンハッタンの奇譚クラブも、これまた秀逸な一編でした。クラブの
雰囲気は、ちょっとアシモフ黒後家蜘蛛の会を思い出したりしていたのですが、最後まで読んでも
結局その正体はよくわからず仕舞い。単なる紳士たちの社交クラブかと思いきや、ラストでは妙に
幻想怪奇的な雰囲気に。まぁ、言ってみれば、奇妙な話が語られるクラブ、というのが一番近い
んでしょうけれど。会員の一人であるマッキャロン医師によって語られたクリスマスの大事件
の終盤の展開に手に汗握りました。ラストの惨劇を思い浮かべると、シュールだし身の毛もよだつ
状況なのに、どこか感動的で、映像化したら凄まじそうだなぁと思いました・・・^^;多分
常識では考えられない状況なんでしょうけれど、執念というのか、奇跡というのか・・・。あの
状態になっても尚、赤ちゃんを生むためにラマーズ法を続けた女性の想いの強さに胸を打たれ
ました。でも、やっぱり映像はホラー・・・^^;;ホラーなのに感動出来るってところが、
やっぱりキングの凄さなんでしょうね。

全くテイストの違う二編でしたが、どちらもとても面白かった。
映画を猛烈に観返したくなりました。借りてこようかな・・・。

そういえば、『スタンド・バイ・ミー』のラストの所を職場で読んでいたら、BGM代わりにいつも
かけているラジオでちょうど映画の主題歌がかかったんですよ。タイムリーでビックリしました。
しかも、読売の朝刊にはこれまたタイムリーなことに、キングの翻訳家として有名な白石朗さんと
作家の冲方丁さんの対談が載っているし。何となく、運命めいたものを感じてしまいました。
たまにあるんですよね、こういうことって。不思議ですけどね。