ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

森見登美彦/「四畳半王国見聞録」/新潮社刊

イメージ 1

森見登美彦さんの「四畳半王国見聞録」。

界は四畳半の内部にこそ存在しているのだ――ある男は数式による恋人の存在証明に挑み、ある男は
桃色映像のモザイクを自由自在に操る。彼らを見守るは、神出鬼没の水玉ブリーフ男。純粋なる
四畳半主義者たちによる、めくるめく7つの宇宙規模的妄想が、京の都を震わせる! 阿呆らしくも
恐るべき物語(あらすじ抜粋)。


モリミー新刊。前作のペンギン・ハイウェイは、モリミーの新境地という感じで新鮮では
あったのですが、個人的にはやっぱりモリミーには京都を舞台にした作品の方が好きだなぁと
ちょっと残念に思っていたので、モリミーらしさ爆発の作品で楽しく読めました。作風としては
デビュー作の太陽の塔やら、タイトルも似通っている四畳半神話大系なんかに通ずる、
京都の男子大学生たちによる男汁ムンムンの、阿呆さとバカバカしさ満載の連作集でした。
モリミーファンなら間違いなく楽しめる一作でしょうが、あの作風に慣れていないと、一体
何が何やら意味不明、てな状態になってしまう感がなきにしもあらず、ですので、初心者には
注意が必要かもしれません(苦笑)。

タイトルにあるように、すべてが四畳半という空間に拘った連作集。きっとモリミー自身が
京大生だった頃に四畳半のせまーい空間で数多も妄想を抱えながら、男臭い学生生活を送って
いたんだろうなぁとついつい想像してしまうのですが、きっとその頃の苦い思い出をロマンに
変えるべく、本書のような四畳半礼賛ストーリーが思いついたのでしょう(苦笑)。四畳半という
狭い空間で繰り広げられる壮大な阿呆話にニヤニヤしながら読みふけってしまったのでした(笑)。

しかし、感想が書きにくい。これはもう、読んだ人にしかわからない感覚じゃないでしょうかね。
正直、なんだかよくわからん部分もいっぱいあったんですけども。それでも、なぜか『面白い』
と思えてしまうところがモリミーの凄いところ。水玉ブリーフがやたらに連呼され、四畳半の
中心に阿呆神が君臨し、凡人を目指す非凡人の集まりたちが凡人になる為の会議をし、四畳半
統括委員会が今日も誰かの四畳半の半畳を支配するべく京都の街を跋扈し、どこかの誰かが
四畳半王国を建国する――ね、わけわからんでしょう。でも、それでこそモリミーワールド。

どこの四畳半でも男たちは阿呆な会話と妄想を繰り広げ、時に黒髪の乙女やら誰かのおっぱい
やらに想いを馳せたりしますが、たまーにちらっと本物のロマンスも挟まれたりします。楓さん
に対する柊の仕打ちにはムカムカしましたが、寝言でいちゃいちゃ出来るくらいなんだから、
実は上手く行ってるんでしょうね。
個人的には『大日本凡人會』のロマンスが好きだったな~。ラストでは思わぬ伏兵が出て来て
ビックリ。でも、そこまで全く存在が感じられなかったところにきちんとヒントがあったという、
なかなかに上手い仕掛けになっていて、感心しちゃいました。確かに途中から存在を全く忘れていた
よ・・・。その人物に関して、作品の前半部でしっかり伏線も張られているしね。
うむ。モリミーにも是非ミステリを書いて欲しいと無理なお願いをしそうになってしまったぜよ。
初音さんが大日本凡人會のメンバーたちを一人づつやり込めていくところが痛快でした。でも、
メンバーたちが非凡な才能を駆使して雪を降らせるところにちょっぴり感動しちゃったりもした
のですけれどね(苦笑)。

『四畳半統括委員会』の正体にはずっこけました^^;そんなオチなのかーと脱力。しかも、
さらっと明かしてくれるし。それまでの意味深な長い前フリは一体何だったんだぁ^^;;でも、
こんな脱力系のオチ、確か『四畳半神話大系』にもあったよなぁ。
半畳選挙運動って、ペコちゃんの憂鬱って、もんどりダンスって・・・一体何だったんだーー^^;;

『グッド・バイ』は、もちろん太宰の同作品を換骨奪胎したものですね。伊坂さんがやっちゃった
から、自分もやらねば!・・・と思ったかどうかは知りませんが(^^;)、伊坂さんとはまた違った
元ネタの生かし方で、興味深く読みました。っていうか、結局この語り手ってダレだったんだろ、
一体?^^;なんだか最後はちょっと可哀想になりました。誰か心配してやれよー^^;

・・・まぁ、深くを追求する作品ではありません。
なんだか訳わからんけど、面白いからエエじゃないか、と寛大なこころで読むべき作品でしょう(笑)。
四畳半のいずこかにおわします、阿呆神様に思いを馳せつつ、今回の記事を終了致したいと思います。