ミステリ読書録

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金城一紀/「レヴォリューションNo.0」/角川書店刊

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金城一紀さんの「レヴォリューションNo.0」。

偏差値42で、近隣住民からも悪評高くバカ学校と言われる僕の通う男子校は、なぜか僕が入学
した年、新入生を200人も多く受け入れた。この事実の裏には、学校側の黒く狡猾な思惑が
隠されているのだが、そんなことはつゆと知らずに、定員過多な狭い校舎の中で、窮屈な思いに
イライラしながら僕らは学校生活を送っていた。そんな僕らが学校側の思惑を知るのは入学して
二ヶ月後――これは、僕と仲間たちの、生まれて初めての冒険譚だ。


震災があってから、胸が痛むようなニュースばかりが報道されて、なかなか本を読み終わっても
記事を書く気になれずにいたのですが、そんな暗い気持ちを吹き飛ばしてくれるようなゾンビーズ
の活躍を読んで、ようやく重い腰を上げる気持ちになりました。それに、トップ記事がいつまでも
西澤さんのあの問題作ってのも早くなんとかしたかったので・・・^^;本書の前に二作程読んで
いるし、『君に届け』の新刊の記事も書きたいのですが、そちらは追って記事にしたいと思って
ます。

傑作『映画篇』以来、ぱったりと新作が出なくなってしまい、もしや筆を折られたのでは・・・と
本気で心配していた金城さんの新作が、大好きな大好きなゾンビーズシリーズだと知った時は、
嬉しくて、書店で狂喜乱舞しました。でも、それと同時に、帯の『完結編』の文字にショックも受け
たのですが。でも、三部作で完結だと思い込んでいたので、また彼らの冒険が読めるってだけでも
すごく嬉しかった。
とは言え、時系列的には一作目のレヴォリューションNo.3』よりも更に遡って、彼らの初めての
冒険を描いた前日譚になります。

今までの三作は、第三者の『誰か』に協力する為に行動し、活躍するゾンビーズたちの冒険が
描かれていたのに対し、本書だけは、彼ら自身が自ら羽ばたく為の冒険譚です。学校側が企んだ
ある目論見の元、暴力教師によって抑圧され、鬱屈した学生生活を送る彼らが、初めて自らの
意志で一線を超えて教師たちに反逆の狼煙を上げ、抵抗する姿が描かれます。これがもう、
嬉しくなっちゃうくらい、今回も痛快で爽快で、震災で暗く沈んだ気持ちを押し上げてくれる
作品でした。決して、今回も明るいだけじゃない。学校側が企んだ目論見の裏には、落ちこぼれ
高校に来るような生徒に対するレッテルが貼りつけられ、彼らに対して蔑むような醜い心が垣間
見えます。そして、ほとんどの生徒がそれを『仕方がない』と諦めてしまう。どうせ勉強が出来ない
から。どうせ、落ちこぼれだから。嫌だったら学校を辞めればいい。そうして、多くの学生が学校
を去って行ってしまいます。けれども、そこに一石を投じたのがゾンビーズたちです。主人公は、
父親からもっとまともな学校への転校を勧められている元優等生。仲間といるのは楽しいけれど、
やっぱりどこかでこんな三流学校辞めてやるという気持ちもあり、心は揺れ動きます。そんな中で
知った、学校側のある黒い情報。身勝手な思惑に踊らされることに嫌気がさした彼らは、ある
計画を立てて、反逆を企てます。自分たちの意志で、何かをぶち破る為に。彼らが、彼らの為に
『飛ぶ』姿には、本当に胸がすく思いがしました。その冒険によって、主人公の迷いが吹っ切れて、
彼らの間に真の友情が結ばれた気がして、嬉しかったです。

今回も、ゾンビーズのメンバーたち一人一人の個性が光っています。そして、彼らの間の深くて
篤い友情に何度も胸が熱くなりました。相変わらず舜臣はクールでカッコイイし、アギーの
フェロモンには男だって抱かれたくなっちゃうし(主人公が毎度の如くに彼の魅力にノックアウト)、
ヒロシは優しい目線で見守ってくれる懐の深い『大人』だし。ヒロシは目立った活躍をする訳では
ないのだけど、彼が出て来るとなんだかすごく安心感があって、ほっとします。それは、もちろん、
私が彼のその後のことを知っているから、感傷的な気持ちになってしまうことも影響しているとは
思うのですが。
そして、そして、今回も我らが愛すべき山下君は、最高でした。ほんとに、彼を見ていると、
嫌なことも全部忘れちゃえそうな気がします。彼が出て来る度に、私も『愛してるぞ、山下ーーー』
って叫びたくなりました(笑)。みんなからおにぎりもらうシーンも大好きだったし、舜臣に
お姫様抱っこされる姿を思い浮かべたら、もう、可笑しくて、可笑しくて。ああ、ほんとの
ほんとに、彼は最高だ!って思いました。

レヴォリューションNo.3』へと続く、ラスト2ページが素敵だ。これ読んだら、絶対『~No.3』
読み返したくなっちゃうね。


『世界を変えてみたくはないか?』


彼らの本当の冒険が、そこから始まるのです。



やっぱり、ゾンビーズは最高ですね。ほんとに、たくさんの元気をもらった気持ちになりました。
日本の未来が不安になってしまう今この時だからこそ、笑顔になれる本書のような作品を多くの人に
読んで欲しい、と心から思いました。
泣いてばかりいられない、明日に向かって何かしなきゃいけない今だからこそ。
ゾンビーズのような強さと結束力が欲しい、と。
金城さんはやっぱりすごいな、と思いました。160ページもないような薄い本なのに、こんなに
胸がワクワクして、心に響く物語を書いてしまえるなんて。
もっともっと、ゾンビーズたちの活躍が読みたかったけれど、これでひとまず完結なのだそうです。
寂しいけれど、宝物のような四部作です。
久しぶりにゾンビーズたちと再会出来て、読んでる間はとても幸せでした。
読んだらきっと、ちょっぴり勇気と元気をもらえる筈です。