ミステリ読書録

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三津田信三/「作者不詳 ミステリ作家の読む本 上下」/講談社文庫刊

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三津田信三さんの「作者不詳 ミステリ作家の読む本 上下」。

虚構と現実が溶け合う恐怖!!ふとしたことから入手した、同人誌、『迷宮草子』を2人は読み始めて
しまった。『忌館』に続く“作家3部作”第2編、全面改稿されて文庫化!杏羅(あんら)町――。
地方都市の片隅に広がる妖しき空間に迷い込んだ三津田は、そこで古書店<古本堂>を見いだす。
ある日、親友の飛鳥信一郎を伴って店を訪れた彼は、奇怪な同人誌『迷宮草子』を入手する。その本
には「霧の館」を初め、7編の不思議な作品が収録されていた。“作家3部作”第2長編、遂に降臨!
(あらすじ抜粋)


絶版になってしまった講談社ノベルス版で読めなかったのは残念ですが、文庫化されて、ようやく
『幻の』作品を読むことが出来ました。
いやぁ。なんでコレ、絶版にしちゃったんですかね。構成がめちゃくちゃ凝ってて、とっても
よく出来た連作長編ミステリ(一応長編なんだけど、作中作がいくつも入っていて、連作っぽい
構成になっているのです)でした。作中作一作ごとの完成度も高いし、それぞれの謎解きにも
ほとんどにどんでん返しが入っていて楽しめるし。まぁ、一作ごとの謎解きの出来にはばらつきが
あったりもするのだけど。それもラストのオチ読むと納得出来ないこともないですしね。
曰くありげな同人誌『迷宮草子』に収録されている短編小説を一作読むごとに作家・三津田信三
その友人・飛鳥信一郎の周りで怪異が起こり、その小説の謎を解くまで怪異が止まない為、二人は
必死で謎解きに挑戦する・・・というのが大筋。件の『迷宮草子』に収録されている短編小説が
作中作としてまるまる挿入されているのですが、その作中作だけでもなかなかに面白い。どの
作品も不可思議な出来事が起きるのだけど、その謎までは解かれていない為、それ単独だと
ミステリとしては成立していません。強いて云えば怪奇小説とか幻想小説って類のジャンルに
相当するのかな。作品自体がミステリっぽい小説もあるにはあるのですが。で、そこに出て来る
謎を現実世界で小説を読んでいる三津田と信一郎があーだこーだと推理して、一作ごとに謎を
解決させて行きます。二人は一つの作品に対して、いくつもの謎解きの解釈を考え出します。
普通ならば、どの解釈が正解かなんてわからない筈なのですが、ここでは、正しい解釈の場合
のみ、小説を読み始めてから二人の周りで起きている怪異が止まるという特異な状況がある為、
一応『これが正解』というのがわかるんですね。
面白い設定考えたなぁと思いました。といっても、この設定自体も、ラストまで読むとまた
覆されていく訳なのですが。良くこんな複雑な設定考えたよなぁ。三津田さんの頭の中って、
一体どうなっているのだろう・・・。
ただ、ラストのオチは・・・どうなんでしょうか、コレ。いかにも三津田さんらしいと言えなくも
ないのですが、引っ張った挙句にこれ?と思う人がいても仕方がないかなって思う。『迷宮草子』
に寄稿した人物たちのペンネームの謎なんかはとても面白かったし、全く気づいていなかったので
感心したのですが。まぁ、脱力系といえば、脱力系の、三津田さんお得意の言葉遊びではありますが。
ただ、『筆者不詳』の○はちょっと苦しすぎないか?^^;これに気づけっていうのは酷じゃない
かしら・・・。







以下ネタバレあります。未読の方は絶対読まないでください。






















そもそも、第三話の『娯楽としての殺人』での三津田の推理がまず引っかかったんですよ。
推理が甘いなぁと。だって、『娯楽としての殺人』を書いたのが真戸崎なのは納得するとしても、
彼が用意した毒薬を、『誤って自分が飲んでしまった』というのはいくら何でも強引すぎないかと。
というか、よしんば誤って飲んでしまったとしても、どういう状況で誤って飲んだのかまで
きちんと推理してくれないと、納得がいかないですよ。だって、普通で考えて、自分が用意した
毒薬を自分で飲むなんて状況に陥るなんてまずありえないでしょ。でも、その辺りが曖昧な
ままなのに、怪異はそのまま止まってしまった。ということは、三津田の推理が正しいって
ことで。なんだか、腑に落ちなかったんですよね。信一郎が怪異に取り憑かれてしまったから、
いつものように推理が覆されることもなかったですし。ただ、ラストのオチを知った後だと、
推理内容がどうでも、『三津田が謎解きをした』こと自体が重要だったことがわかるんですけど。
多分、どんな推理でも、怪異は止まったってことなんでしょうね。この作品に関してだけは。

あと、『迷宮草子』に寄稿した短編って、確かにそれぞれに一人称が違うし、文体も違うんだけど、
別人が書いたように思えなかったんですよね。同じ人が別人のように書いてるようにしか思え
なくて。それはもちろん、作者の三津田さんが書いてるんだから当然だと思っていたのですが・・・
ラストのオチ読んで、もしかしたら、三津田さんは敢えてそういう(同じ人物が敢えていろんな
文体で作品を書いたような)書き方をしたのかも、と思いました。そこまで計算してたら、ほんとに
すごい作家だと思わざるを得ないのですが・・・。

あと、ペンネームの謎に関しても、最後まで気づけなかったのは間違いないのですが、途中で
信一郎が二話目の『子喰鬼縁起』の作者、丁江洲夕の名前にルビが振ってなくて、どう読むか
わからないと言っているくだりで、確かに自分もどう読むかわからなくて適当に読んでいた
ところがあったので、ハッとしました。自分ではルビを読み逃したと思い込んでたんですよね。
でも、最初から振ってなかったのか、とそこで気付かされまして。ほんとに細部まで気を遣って
書いているなぁ、と感心させられました。まぁ、大なり小なり、どの作品でもそれは感じた
ことなのですが。



















作中作『迷宮草子』の中のイラストも幻想的な耽美系の絵柄で、すごく雰囲気出てて素敵でしたね。
ただ、気になったのは、このイラストを誰が描いたのかという点。そこにも何らかの仕掛けが
あったらもっと良かったかな。

本当に細部にまで拘った構成になっていて、すごく良く出来ているなーと思いました。
ミステリファンなら間違いなく満足出来る作品じゃないでしょうか(まぁ、オチに関しては
何とも言い難いところもありますが^^;)。
初期の頃からこんな良く出来た本格ミステリを書いていたんですねぇ。なんで当時年末ランキングで
話題にならなかったんだろう・・・(単に私が知らなかっただけか?^^;)。ミステリ界には
それなりにアンテナを張っているつもりだったのにな。