ミステリ読書録

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井上雅彦/「夜の欧羅巴」/講談社刊

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井上雅彦さんの「夜の欧羅巴」。

宮島レイ、12歳。母親は有名な吸血鬼画家、ミラルカ。ふたりきりの生活だけれど、仲良く幸せに
暮らしていた。ところが、ミラルカは彼の前から忽然と姿を消してしまった……。そんなある日、
3人の刑事が彼女の消息を尋ねにやってくる。とある殺人現場に、彼女の絵の切れ端が落ちていたと
いう。なんと、国際的な陰謀に捲きこまれたかも知れない! 母さんはヨーロッパに? 助け出せる
のはぼくだけだ! ところが、レイに残されたのは、たった一冊の幻の画集。鍵を握るのは、
不思議な少女。
異国への旅に踏み切るレイを、追ってくるのは国際警察? それとも闇の異形たち? 妖しくも
美しい国から国へ、スリルとホラーとサスペンスの冒険がはじまる……!講談社ミステリーランド
シリーズ(あらすじ抜粋)。


二冊同時刊行されたミステリーランドシリーズの片割れ。井上さんの作品を読むのは初めて。
アンソロジーなんかで短編は何度か読んではいると思うのですが。同時刊行された我孫子さんと
示し合わせた訳でもないのでしょうが、なぜか両方とも吸血鬼が関わる作品でした。といっても、
こちらは吸血鬼だけでなく、古今東西の妖怪やら怪物がわんさと出てきますが^^;
結構ツッコミ所も多いし、最後まで読んでも謎な部分が残されていたりするのですが、幻想怪奇
な雰囲気の中で繰り広げられる冒険活劇にハラハラドキドキ、なかなかに楽しめる一冊でした。
装幀も雰囲気と合っていて素敵だし、ミステリーランドらしい一冊と云えるのではないでしょうか。

何と云っても、レイがかつて毎日のように通っていた不可思議な商店街のいろんな場所と、
ヨーロッパの各都市とが空間で繋がっているという、どこでもドアみたいな設定が面白かった。
こんな商店街で暮らせたら、毎日ヨーロッパ旅行出来ちゃいますよねぇ。いいなぁ。住みたい。
妖しげな商店街に連なる各お店の雰囲気も『いかにも』な感じがあって良かったですね~。
お伽話の中に出て来るキャラクターがいっぱい住んでそうで。
主人公たちに立ち向かって来る敵の妖魔たちは結構ビジュアル的に気持ち悪いのとかもいっぱい
出て来ます。ちょっとその辺りはB級のホラーファンタジー映画を観ている気分でした(苦笑)。

画家である、主人公レイの母親が描いた絵が集められた一冊の画集がキーポイントになってる所
も好み。不思議な絵が集められた画集、すごく観てみたくなりました。象徴派っぽい絵なのかな~。
でも、手にした途端命を狙われるのは勘弁ですが^^;

ところで、レイの母親ミラルカは『吸血鬼画家』と言われている、とのことなんですが。この
吸血鬼画家って、結局どういう意味なんでしょうか。本当に彼女が吸血鬼かどうかが良く
わからない書き方だったので^^;普通に妖怪の存在が世間と共存しているという設定みたい
なので、やっぱり本当に吸血鬼だったのかなぁ。でも、別に彼女が血を吸うシーンが出て来る
訳でもなく、レイがその血を受け継いでいるということもなさそうで、彼女とレイってほんとに
血が繋がっているのかな、とちょっと疑いたくなっちゃうところもありました。でも、レイの
父親はどうやら吸血鬼のようだから、ミラルカは父親から血を吸われて吸血鬼になったってこと
なのかな。父親のビジュアル、菊地秀行さんのヴァンパイアハンターDみたい、とか思っちゃい
ました(苦笑)。
ミラルカと青山さんの関係も、単なる画家と雑誌の編集者以上の信頼関係があるように感じたの
ですが、その辺りも明かされないまま。ミラルカがどうなっちゃうのかも有耶無耶なままだし。
結構、謎な部分が多かったような^^;

まぁ、こういう世界観の作品では、あまり細かい所にツッコんじゃいけないのかも(苦笑)。
幻想怪奇な作品世界にどっぷり浸って、主人公たちと一緒にハラハラドキドキしながら妖魔退治を
楽しむ作品なのでしょう。
ジュヴナイルなのは間違いないのですが、どちらかというと、大人向けのダークファンタジーって
言った方がしっくり来るかもしれません。
いろんな要素てんこ盛りのサービス精神旺盛なストーリー展開で、お腹いっぱいって感じ。
終盤は無理矢理収拾つけた感じがなきにしもあらずですが、ラストのワクワクするような
終わり方は好きでした。レイとココの冒険をもっと読んでみたいな。