ミステリ読書録

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アントニイ・バークリー/「毒入りチョコレート事件」/創元推理文庫刊

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アントニイ・バークリー「毒入りチョコレート事件(高橋泰邦訳)」。

ロジャー・シェリンガムが創設した「犯罪研究会」の面面は、迷宮入り寸前の難事件に挑むことに
なった。被害者は、毒がしこまれた、新製品という触れ込みのチョコレートを試食した夫妻。夫は
一命を取り留めたが、夫人は死亡する。だが、チョコレートは夫妻ではなく他人へ送られたもの
だった。事件の真相や如何に?会員たちは独自に調査を重ね、各自の推理を披露していく―
(あらすじ抜粋)。


なんとか、かんとか、今月の一冊UPすることが出来ました。実は、借りたのは随分と前なのですが、
予約本に阻まれてなかなか読むことが出来ず、一度の延長を経て、二度目の返却期限ギリギリに
なってようやく手に取ることが出来ました^^;でも、読み始めたら、するするっと読み進め
られちゃいまして。以前からあちらこちらで紹介されて、タイトル的にも昔から気になる作品
だったので、読めて良かったです。思っていた作品とは全然違っていたのですが、二転三転
どころか四転五転以上する推理合戦の過程がとても面白かった。出だしだけは相変わらずちょっと
読み辛さを感じたものの、会話文も多いせいか、その後はあまり苦労せずに読めました。何が
驚いたって、シリーズの主人公で探偵役の筈のロジャーの推理で最終決着にならないところ。
各自の推理を発表する順番がロジャーが最後ではなかったので、探偵役の筈なのに?と不思議に
思ってはいたんですけどね。でも、その後の二人の推理の展開を読んで、納得。実は、どうせ
最後にまたロジャーが出て来て、最終的な推理を述べ始めたりするんだろう、と思っていたの
ですが、まさか、こういうオチだとは。でも、なるほど、こういうオチだからこそ、この推理順
だったのだなぁと、すとん、と腑に落ちたのでした。
少し前に同作家の『ジャンピング・ジェニィ』を読んだ時に、ロジャー・シェリンガムは、
既存の探偵のキャラクターから逸脱した存在』みたいなことをお仲間さんに教えていただいたの
ですけれど、確かに本書を読むと『ジャンピング~』に続いて、その言葉が裏付けられる扱いに
なっているな、と感じました。だって、探偵役になってないし(笑)。最終的に推理する人物が
およそ真相を述べる探偵役のキャラらしからぬ気弱な性格で、推理を発表する時も、至って自信
なさげに訥々と自分の考えを述べて行くので、ラストの真犯人の指摘の時も、それが正しいのか
半信半疑って感じで読んでました^^;犯人がああいう行動に出なければ、その場の誰もがその
推理が正しいとは思えなかったのでは・・・穿ち過ぎかな、それは^^;

ロジャーが会長を務める『犯罪研究会』のメンバーたちの推理は、それぞれにそれなりに説得力
があって、面白かったです。本当の探偵でも警察でもなく、単なる道楽で集まってるクラブだろうに、
みんな真剣で、やたらに調査にお金を注ぎ込むのにちょっと面食らいましたが^^;警察から
情報を引き出すような人もいるし。日本だったら考えられないんじゃないのかなぁ。警察があんな
簡単に捜査情報を一般人に与えちゃまずいと思うんですが。ある程度の地位や財力がなければ、
このクラブではやっていけなそうです^^;
しかし、同じ情報を与えられて、これだけ見事に全員が違う犯人を指名するって、ある意味
有り得ない位の確率ですよねぇ。一人くらい、犯人が重複しても良かったのでは、とか思ったりも
したのですけれども。動機もばらばらだったしね。まぁ、これだけ一つの事件に対してバラエティに
富んだ解釈が出来る、という、本格推理のお手本みたいな作品とも云えるのかもしれません。だから、
本書が長く名作として読み継がれ続けているのではないでしょうか。

ちなみに、推理するメンバーたちがそれぞれ今回の事件を既存の事件になぞらえるんですけれども、
私はグリコ森永事件を思い出してしまいました。製菓会社繋がりってことで(笑)。

ミステリ好きとして読んでおいて損はない作品なのは間違いないでしょう。面白かったです。