ミステリ読書録

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シャルル・ペロー・澁澤龍彦/「ペロー残酷童話集」/パサージュ叢書刊

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シャルル・ペロー澁澤龍彦「ペロー残酷童話集」。

「眠れる森の美女」「親指太郎」「赤頭巾ちゃん」「青髯」ペロー童話の誰も知らない冷血な結末は、
成人女性のための恐ろしい童話と教訓だった。エロティシズムで童話を読み解く渋沢エッセイも
多数収録(紹介文抜粋)。


ちょっとズルして今月の一冊。ペローの童話集です。収録作はみなさんご存知の童話ばかりなの
ですが、ペローの原作は、タイトル通りの、まぁ~残酷かつエグイ内容で怖いこと、怖いこと。
こんなの、子供心に読まされた日には、トラウマになること間違いなしですよ。そもそも、ペロー
の童話は、幼児向けではなく、成人女性に向けて書かれたものだそうなので、むべなるかな。
とはいえ、成人女性に向けてにしたって、こんなに怖い結末にすることないのに・・・って内容
でしたけどね^^;これ読んで、教訓として肝に銘じる女性なんかいるんですかねぇ。まぁ、
日本の民話だって、怖い内容のものはいっぱいある訳で、教訓話ってものは、基本的には『悪い
ことをするとこんなヒドイ目に遭っちゃうよ』と教えるものなんでしょうけどね。

残酷童話部分も寒い気分に浸れて(笑)面白かったのですが、後半の澁澤龍彦によるエロティシズム
溢れる評論もなかなかに興味深く読みました。そもそも、この本を手に取るきっかけも、辻村深月
さんの新刊を読んで主人公が澁澤の作品を読むシーンを読んで触発され、久々に私も澁澤の作品が
読みたい、と思っていたところに、図書館の『本日返却棚』に本書があったのをタイミング良く
目にしたからなのでした。
澁澤の評論を読むと、いかに童話の中のモチーフが性的なものを差している場合が多いか、に
気付かされ、驚かされます。例えば、収録されている『眠れる森の美女』のお姫様が糸つむぎの
針に刺されて眠ってしまう場面は、少女の処女喪失を表しているそうだし、赤ずきんちゃん』
赤ずきんは、少女の月経の象徴と言われているそうだし。確かに、ペロー版のラストで狼が
赤頭巾ちゃんを食べてしまうというのは、まさしくオオカミに処女を喪失させられてしまったという、
そのものズバリを表していると取れますね。
また、本書には収録されていないけれども、同じくペローの『シンデレラ(サンドリヨン)』で、
シンデレラが履いているガラスの靴は、壊れやすい処女の性器の象徴なのだそう。青髭
なんか、まさに成人女性が好奇心を持つとすべてを失うことになるというアダルトな教訓譚
そのものですしね。ペローの童話が成人女性向け、というのはなるほど、と思わされるものが
ありますね。
その青髭のモデルとなった、ジル・ド・レエ侯爵についての経歴は、何度この手の解説を
読んでも、怖気が走ります。澁澤といえば、サド侯爵かジル・ド・レエ侯か、ってくらい、
氏が好んで取り上げた人物ではありますが。やはり、改めて読むと、本当に実在したのかと
疑いたくなる位、その残虐で冷酷無比な犯罪の数々には慄然としてしまいます。それ程の人物が
裁判にかけられた時の様子が、そんな世紀の大犯罪者とは思えない程の小物っぷりなのには
面食らいました。残忍な悪魔のような人格の裏には、子供っぽく駄々っ子そのままの幼稚な人格が
隠されていたようです。裁判にかけられた時の彼の様子は、ただただ滑稽で、800人もの
人間(殺害人数には諸説あるようですが)を虐殺した大犯罪者にはとても思えませんでした。
ジャンヌ・ダルクと共に戦った戦争が彼を変えてしまったのでしょうか・・・。



どの童話も、あっけらかんとした語り口で残虐で残酷な描写が語られたりするので、余計に
怖さ倍増って感じでした。また、間に挟まれる挿絵の怖いこと。特に、『親指太郎』の中の、
人食い鬼の七人の娘が首を刈られて殺されるイラストと、青髭の中の、女性の首がろくろっ首
みたいに伸びてるイラストは、トラウマになりそうなくらい怖かった^^;

解説が桐生操さんなのも嬉しい。残酷童話といえば、桐生さん、みたいなところありますからね
(とか言いつつ、著作はまだ読んだことないのですが^^;)。

童話も挿絵も評論も、心胆を寒からしめる一冊でした。澁澤ワールド全開って感じで嬉しかった。
これから夏に向けて、さむーい気分になりたい時はお薦めかも(笑)。節電対策の一環として
いかがでしょうか(笑)。