ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

梨木香歩/「ピスタチオ」/筑摩書房刊

イメージ 1

梨木香歩さんの「ピスタチオ」。

緑溢れる武蔵野に老いた犬と住む棚。アフリカ取材の話が来た頃から、不思議な符合が起こり
はじめる。そしてアフリカで彼女が見つけたものとは。物語創生の物語(紹介文抜粋)。


久々に梨木作品を読みました。他の方の記事で、なんとなく私好みじゃなさそうな感じがして
いたので、どうしようかと思ってた作品なのですが、開架で見かけて、なんだか装幀が綺麗で
惹かれたのと、内容ぱらぱら見たら読みやすそうだったんで、借りてみました。

結果として、なんとも不思議な読書をしたって感じでした。小説を読んだっていう充足感は
ないんですよね、これが。どちらかというと、アフリカの旅行記を読んだような、旅エッセイを
読んだような感覚。正直、ストーリー的に面白いとは言い難いし、基本設定に疑問を感じる所も
あるし、前半と中盤とラストで話がばらばらのような統一感のなさを感じるしで、なんだか
不満だらけの作品と言えなくもないのですが、不思議とページをめくる手が止められず、最後まで
読まされてしまいました。これは多分、梨木さんの文章の力なんだと思う。梨木さんの世界に
取り込まれてしまったというか。そこに一歩足を踏み入れると、最後まで抜け出せなくなって
しまうのかも。棚がアフリカに渡ってからの、動植物とか自然の情景描写はやっぱりさすがですね。
その土地の情景が頭に浮かんで来て、音や匂いまで身近に感じられるような臨場感がありました。

ただ、アフリカに行ったのはそもそも旅雑誌の企画取材の為だった筈なのに、ライター一人だけで
そんな危ない土地に行かせるってあり得るのかなぁ、とか、取材そっちのけで自分の都合で
行きたい場所を決めていいのかなぁ、とか、ツッコミ所は結構ありました。
そもそも、主人公の棚自体、あんまり好感が持てなかったんですよねぇ。なんだか、掴み所の
ない性格って感じがして。彼女の内面心理に共感出来るところがないというか・・・。前半の
飼い犬のくだりと、アフリカに渡ってからのアフリカ旅行記との内容的な乖離も気になったし。
最後に収録されている棚による短編も、単独で読めば梨木さんらしくて好きなんですが、作中作
として挿入されるには、ちょっと内容的にも唐突すぎて、浮いてる感じがしてしまいました。
作品構成がなんだかちぐはぐなんですよね。一作の長編として完成されてるって感じがしな
かったのがちょっと残念だったかも。
でも、アフリカ旅行でのクライマックスに出て来たピスタチオのくだりには、がつんと衝撃を受け
ました。このピスタチオの使い方はさすがですね。タイトルを何故ピスタチオにしたのかなぁ、と
そこを読むまでちょっと不審に思ってたんで。ジンナジュだのダバだの、スピリチュアルな内容
にはかなり戸惑ったし面食らった所があったんですが、最後にピスタチオの木にすべてが集約
されるところは素晴らしいな、と思いました。まぁ、下に埋まっていたもの自体はぞっとさせる
ものではあるんですが・・・この場面に関しては、恐怖よりは感動の方が優っていた気がしますね。

なんとも、評価に困る作品ですね。面白かったとは言い難いのですが、読んで良かったと思える
作品なのは間違いないし。ただ、結局のところ、作者が何を書きたかったのかはあんまり良く
わからなかったかも。ほとんどスピリチュアルなアフリカ旅行記がメインだったし。
あと、棚の愛犬マースの病気はその後どうなったんですかねぇ。日本に帰国してからの描写が
ないのもちょっと消化不良。結局、旅雑誌には、アフリカ体験に触発されて書いた『ピスタチオ』
の短編を寄稿したってことなんでしょうか。単独で読む分には、すごく梨木さんらしい世界観で
好きなお話だったんですけどね。

お話としてはあんまり好きじゃなかったんですが、梨木さんの文章はやっぱりいいなぁ、と
思いました。
また『家守綺譚』みたいな作品が読みたいなぁ。