ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

中野京子/「怖い絵」/朝日出版社刊

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中野京子さんの「怖い絵」。

一見幸せな家族『グラハム家の子どもたち』…けれど、この絵の完成後?スポットライトを浴びる
ドガの『踊り子』…じつは、この時代のバレリーナは?キューピッドのキスを受ける豊満な裸体
『愛の寓意』…でもほんとは、このふたり?名画に塗り込められた恐怖の物語。心の底からゾッと
する名画の見方、教えます(紹介文抜粋)。

<目次>
ドガ『エトワール、または舞台の踊り子』;ティントレット『受胎告知』;ムンク『思春期』;
クノップフ『見捨てられた街』;ブロンツィーノ『愛の寓意』;ブリューゲル『絞首台の上の
かささぎ』;ルドン『キュクロプス』;ボッティチェリ『ナスタジオ・デリ・オネスティの物語』;
ゴヤ『我が子を喰らうサトゥルヌス』;アルテミジア・ジェンティレスキ『ホロフェルネスの首を
斬るユーディト』〔ほか〕


出版当時から、読みたい読みたいと熱望していた本。別に、図書館検索すれば借りるチャンスは
いくらでもあったのだろうけど、なんとなくいつか開架で出会ったら借りればいいや、と思って
今まで読めずにいました。先日行った地域図書館の、なぜか新刊本棚にぽつりと置いてあって、
ようやっと借りることが出来ました。
これはですね、絵画好きにはたまらない本ですね。ほんとに面白かったし、タイトル通り、怖い絵
ばかりで、ぞぞぞぞーーーっとしまくりでした。いや、ほんと、怖いわ。まず最初に、題材となる
絵のタイトル・作者と写真が紹介されるんですね。で、絵を見た瞬間に『怖い!』と思う作品も
あるのですが、一見、どこが怖いの?って作品も結構多いんです。でも、でもでも。中野さんによる
その絵の解説文を読むと、ですね。これが、もう、とんでもなく怖い絵だということがわかるんです。
その『怖さ』が理解出来る瞬間が、なんとも言えず、快感でした(変態?)。ぞぞーっとするん
ですけど、その怖さがわかると、絵自体の見方もガラっと変わってしまう。すごいなぁ。私は、
絵を観るのは大好きなんですけど、実はそんなに絵画に造形が深い訳じゃない。そのくせ、音声
ガイドなんかを借りて観るのが嫌いで、ただなんとなく鑑賞してるだけなので、絵の横に解説が
ついていない作品って、ただ『観てるだけ』なんですよね。その絵の持つ主題がどうとか、人物が
どうとか、全然わからないで観ているから、画家が本当にその絵で伝えたいことなんてわからない。
まぁ、それはそれで別にいいとは思うんですけど、やっぱり、詳しい人から解説してもらうと、
絵の解釈が全然違って、目からウロコ、なんてことになる。今回取り上げている絵も、実際生で
観たことがある絵もいくつかあったんですが、中野さんの解説を読んで、まさしく『目からウロコ』
状態でした。うーん、実物を観る前に、この本を読んでいれば、直接その恐怖を感じることが
出来たのになぁ・・・(それはそれで、怖いけど^^;)。
まぁ、ゴヤ『我が子を喰らうサトゥルヌス』やら、ジェンティレスキの'『ホロフェルネスの首を
斬るユーディト』なんかは、観た瞬間恐怖が襲ってくるような絵ですけど^^;

取り上げてある作品は全部怖かったんですけど・・・どれが一番怖かったかなぁ。ホルバインの
『ヘンリー八世』のエピソードも怖かったな~。暴君もここまで来ると・・・機嫌を損ねたら
即死刑って・・・(絶句)。ホルバインが命拾いしたのが不思議になってしまうくらいでした^^;
あと、ジェリコーメデューサ号の筏』のエピソードも強烈でした・・・こわ、怖い~(><)。
人間、極限を超えてパニックになると、こういう状態に陥ってしまうものなんですかね・・・。
地獄のようなサバイバル・・・そういうミステリー小説はいくらでも読んでますけどね・・・。
実話だと思うと、心胆を寒からしめるものがありますね。

表紙にもなっていて、真打とばかりに最後に登場する、ジョルジュ・ラ・トゥール『いかさま師』
も、数年前のラ・トゥール展で生で観ていて大好きな絵なんですけど、細かく画面上の人物の表情
や心の動きを一人づつ解説してもらうと、また全然見方が変わって怖さ倍増でした。こんな人たちの
カモになった日には・・・うう。怖い。
しかし、ラ・トゥール自身の解説で、結構暴君で嫌なやつだったと知って、ちょっとショック
でした。才能のある人間なんて、大抵どっか歪んでるものなんですかね・・・(偏見?^^;)。

いやー、面白かったです。絵画の解説本はたくさんあるでしょうけど、『怖い絵』に限定した
切り口がいいですね。この黒さがたまりません。これってシリーズ化されていて、結構作品
出てるんですよね。他のも読みたいなぁ。予約しようかな。
絵画好きなら絶対楽しめる本だと思います。寒くなれるし、夏にはぴったりかも(笑)。


本書で取り上げている作品を一部紹介。

ティントレット『受胎告知』
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ブロンツィーノ『愛の寓意』
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ゴヤ『我が子を喰らうサトゥルヌス』
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レーピン『イワン雷帝とその息子』
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クノップフ『見捨てられた街』
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ラ・トゥール『いかさま師』
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取り上げているのは、どれも素晴らしい名画ばかりです。
ゴヤの絵は見るからに怖気を唆る絵ですよね~^^;ブロンツィーノやクノップフの絵は
解説されると、なぜ怖いのかよ~くわかります。
名画の中に隠された『怖さ』とは?ほんとにどれも怖いです^^;
上記に紹介した絵がなぜ怖いのか、是非読んで確かめてみて下さい。