ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

近藤史恵/「サヴァイヴ」/新潮社刊

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近藤史恵さんの「サヴァイヴ」。

他人の勝利のために犠牲になる喜びも、常に追われる勝者の絶望も、きっと誰にも理解できない。
ペダルをこぎ続ける、俺たち(ロードレーサー)以外には――『サクリファイス』『エデン』に
秘められた過去と未来が今明かされる。スピードの果てに、彼らは何を失い何を得るのか。日本・
フランス・ポルトガルを走り抜ける、待望のシリーズ最新刊!(あらすじ抜粋)


サクリファイス』『エデン』に続く、自転車ロードレースシリーズ(?)第三弾。今回は
短編集。ようやく『Story Seller』に載った赤城と石尾のお話が収録されました。という訳で、
全部で六作収録されているのですが、うち三作は既読。ただ、改めて読んでも、赤城視点の
お話は赤城と石尾の関係や、彼らのロードレースにかける熱い想いが伝わって来て良かった
ですね。ミステリ色が薄くても、十分読ませる作品になっていると思います。ただ、その反面、
チカが活躍する話は、ミステリとしてもロードレースものとしてもちょっと中途半端な印象で、
消化不良な読後感なのが残念でした。チカのキャラクターは好きなのですが、キャラ的に石尾
ほどの強烈な個性がないから、どうしても主役として使うと作品全体の印象も薄くなってしまう
のかも・・・。
それだけ、石尾という人物のキャラが光っている、とも云えるのですが。石尾のロードレース
バカっぷりは、それだけでも感動に値するし、それをなんだかんだで支える赤城の存在もまた、
読む側の心を揺さぶる要素として非常に効いているんですよね。チカにはそういう唯一無二の
存在がいないし(ミッコは近いものがありますが、赤城と石尾ほどの関係は築けていないと思う
ので)、彼がロードレースの自分の才能や限界を変に理解している分、ロードレースにかける
『熱さ』みたいなものが石尾の話に比べて薄いと感じてしまうせいかもしれません。

収録作の中には、一作目となる『サクリファイス』よりも時系列的に前の話も後の話も入って
いるのですが、作者がネタバレしなように細心の注意を払って書かれている所はさすがですね。
三作、どれから読んでも多分大丈夫だと思いますが、この作品から読んで、『サクリファイス
を読むと、ラストでより大きなショックを受けることになるかもしれません。ただ、その方が
ある人物のその部分の行動に納得が行くようになるかも。この人物ならば、そういうことも
やりかねないかもしれない、と思えるかも。私自身は、結構そこに疑問を覚えたクチだったので。
十二分に、作品としては衝撃を受けたし、好きな作品でもあるのですけれどね。

ミステリとしてのカタストロフはどの作品にもほとんどありませんが、馴染みのないロードレース
の世界を身近に感じられるという意味では、短編でも何ら遜色ありません。自動車とも自分の脚で
走るのともまた全く違う、風と一体になれる世界、というのが行間から感じられるのがいいですね。
自転車は私も毎日のように乗りますが、そういうのともまた全然違う感覚なんだろうな。今回も、
ロードレース特有の、『エース』『アシスト』の関係の重要性を感じる作品が多かったです。
未だに私には理解出来ない部分もあるのですけどね^^;;

このシリーズはまだ続くんですかねぇ。近藤さんの代表作となるシリーズとして、これからも
続けて頂きたいですが。さすがにそろそろネタ切れですかねぇ。まだまだチカや石尾や赤城と
会いたいです。