ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

奥田英朗/「我が家の問題」/集英社刊

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平成の家族小説シリーズ第2弾!完璧すぎる妻のおかげで帰宅拒否症になった夫。両親が離婚する
らしいと気づいてしまった娘。里帰りのしきたりに戸惑う新婚夫婦。誰の家にもきっとある、
ささやかだけれど悩ましい6つのドラマ(紹介文抜粋)。


『家日和』に続く奥田さんの家庭をテーマにした短編集第二弾。実は前作の『淳平、考え直せ』
は、予約したものの、あまり世間の評判がよろしくないようなので、予約解除してスルーしちゃった
んですよね^^;でも、本書は『家日和』系だとわかっていたので、楽しみにしていました。
様々な家庭のささやかな問題を描いた6作の短編が収録されています。どれも、他人からしたら
ささいな何でもないような悩みや問題なのだけど、当人たちにとっては深刻なことであるのが
伝わって来るから、感情移入しながら読めましたし、共感出来る部分が多かったです。ただ、
夫婦のお話が多いので、独身の私には、なんとなく共感出来るような気がするってだけかもしれない
ですけどね^^;将来結婚したら、こういうことで悩んだりするのかな~とか、子供が出来たら、
こんな問題が出て来るのかな~とか、いろいろ勉強になりました。心に留めておこう。メモメモ(笑)。
離婚の話だけは、参考にしたくはありませんけれどね(苦笑)。
面白いなーと思ったのは、それぞれの主人公が、結構な割合で、家庭での悩みを職場とか学校とかで
他人に相談したり、周りの人の体験談を聞いたりして参考にするところ。結構、一人で悶悶と
抱えてしまうケースも多いと思うのだけど、本書に出て来る登場人物たちはその辺り結構オープンで、
周りの人の意見を聞いて、問題解決に役立てることが多かったように思います。そういう、柔軟性
を持ったキャラクターが多いというかね。だから、問題を抱えていても、さほど重くならずに、
あっさり解決できちゃう。まぁ、家庭の問題なんて、よっぽど根が深くなければ、考え方一つで
解決できちゃうものなんだ、ということなのかもしれません。
あと、それぞれの主人公が、基本的に家族のことを思いやっているのが伝わって来るところが
良かったですね。普段無関心に振舞っているように思えても、やっぱり家族は家族。家族が辛い
目に遭っていれば、自分も辛いし、家族が幸せであれば自分も幸せなのだという思いやりが
どの作品からも伺えて、心が温まりました。



以下、各作品の感想。

甘い生活?』
淳一は、新婚なのに、家に帰りたくない。妻の完璧な主婦っぷりが、なぜか窮屈に感じるのだ――。

私が旦那だとしたら、こんな奥さん最高だと思うけど、でも、確かに、完璧すぎて窮屈に
感じるっていうのはあるのかも。他人からみたら、只管贅沢な悩みに思えるけれど、ささいな
考え方の違いのズレが積み重なると、こういうことになるんでしょうね。お互いに遠慮し合って
言いたいことが言えない関係だと、余計に辛いですね。最後に二人がどこか嬉しそうに喧嘩する
シーンが良かったです。

『ハズバンド』
会社で自分の夫が仕事が出来ないらしいと気づいためぐみは、愛妻弁当で夫を応援しようと目論む
が――。

お弁当で職場の夫を応援する、というのは主婦らしい面白いアイデアだなぁと思いました。
なんとかして、職場で孤立しているであろう(あくまでめぐみの推定)j夫を励ましたいと
頑張るめぐみの努力がいじらしかったです。お金をかけずに、けれども栄養バランスと彩りを
考えて、豪華になりすぎない『いちばんいい普通』のお弁当。なんだか愛があっていいなぁ。
やっぱり、男心を掴むには、料理が一番なんですかね。

『絵里のエイプリル』
高校三年の絵里は、両親が離婚の危機にあることを知ってしまう。動揺した絵里は、友人や知人
に相談して回るのだが――。

両親の離婚。高校生にとっては、それはショックな出来事でしょうね。両親が不仲になってしまった
のは、それはもう仕方のないことだけど、出来れば両親にはずっと仲良くいてほしい。平凡な日常
がある日突然崩れることへの不安。絵里はまだ、親身に相談に乗ってくれる友達や先生がいて
良かったと思う。ラストの姉弟の会話が良かったです。子供は親の知らないところで成長している
ものなんですね。

『夫とUFO』
ある日、夫がUFOを見たと言い出した。夫は最近夜の帰りが遅いが、どうやら河原でUFOと交信
しているらしいのだ――。

いきなり、家族が『UFOと交信出来る』なんて言い出したら、そりゃ、頭がどうかしちゃったんじゃ
ないかと心配になりますよねぇ。結局、夫がUFOと心を通わせたくだりは夫の妄想なんでしょうか・・・。
最後、美奈子が宇宙人に化けて夫と対峙するシーンが最高。夫婦愛だなぁ。

『里帰り』
結婚して初めての夏休み。お互い仕事を持っている幸一と沙代は、話しあって、北海道と名古屋、
お互いの実家に揃って顔を出すことにしたのだが――。

良く、お互いの実家や親戚と折り合いが悪いというケースは耳にするけれど、幸一と紗代の
場合は、それが非常に上手く行ったケースですね。お互いがお互いの親戚や実家の雰囲気を
気に入って楽しく過ごせるなら、それに越したことはないですよね。こういう夫婦なら、きっと
結婚生活も長続きするんだろうな。どちらの実家の人々も、思いやりがあって素敵だな、と思い
ました。

『妻とマラソン
ベストセラー作家の康夫の妻は、最近マラソンに凝っているらしい。いつも夫に遠慮している
控えめな妻が夢中になっている趣味をなんとか応援してやりたい康夫だったが――。

これは、作者ご本人の家庭がモデルだったりするんでしょうか。N木賞受賞作家だし(笑)。
編集さんとの会話なんか、さすがにリアル。妻の東京マラソン挑戦を、家族総出で盛り上げ
応援するところがとっても良かったです。いつもは見られない家族の頑張りを目にするのは、
やっぱり胸に迫るものがありますね。きっと、実際の東京マラソンでも、同じようなドラマが
たくさんあったのでしょう。ラストの締めにふさわしい快作でした。



ほんと、奥田さんって、こういう何気ない日常の一コマを切り取って読ませるのが抜群に巧い。
なんてことはない話ばかりなんだけど、読み終えて、ああ、やっぱり家族っていいなぁって思える
短編集にしっかり仕立ててあるところはさすがだと思いました。
心がほっこりしたい人にはお薦めです。