ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三津田信三/「生霊の如き重るもの」/講談社ノベルス刊

イメージ 1

三津田信三さんの「生霊の如き重るもの」。

刀城言耶は、大学の先輩・谷生龍之介(やちおりゅうのすけ)から、幼い頃疎開していた本宅での
出来事を聞かされる。訥々と語られたのは、『生霊(いきだま)』=『ドッペルゲンガー』の謎
だった。怪異譚に目がない言耶は、その当時龍之介が見たものが何だったのか、解明を始めるの
だが……(「生霊の如き重るもの」)。表題作のほか4編を収録した、刀城言耶シリーズ短編集
最新作!(紹介文抜粋)


刀城言耶シリーズ最新作。今回は、言耶が学生時代に体験した事件ばかりを集めた短編集。
ただ、学生時代の話ですが、本人の性格その他はほとんど変わってないです。普通、学生時代の
話って少なからず『若かったんだなぁ』みたいな青臭さがあると思うんですが、彼の場合、
そういうのが全くないです^^;自分の知らない怪異譚を耳にすると、詳細を聞かずには
いられないという奇怪な性格もその頃から変わってないですし。強いて違うところをあげると、
学生時代の方が先輩の阿武隈川に振り回されてたって位でしょうか。小説家になってからも
二人の付き合いは続いてますが、学生時代ほどには困らされてないと思うんですけど^^;
学生時代の阿武隈川先輩が、ここまで傍若無人な人間で、学生たちから広く恐れられている存在
だとは・・・。とんでもない人と付き合いを持ってしまった言耶が哀れになりました。まぁ、
読者としては、阿武隈川に振り回されてへいこらしている言耶を見るのも楽しいのですけれど
ね(苦笑)。
今回は、足跡の謎を巡る事件が3つと、ドッペルゲンガーと人間消失を扱った謎が一つづつの
計5作の短編が収められています。どれも怪異とミステリーを程良く絡めていて楽しめたの
ですけれど、個人的に特に気に入ったのは表題作でしょうか。横溝正史風の設定に、終盤は
二転三転四転する言耶のちょっとイライラっとする推理(^^;)で、一番このシリーズらしさが
出ていたと思います。最終的な推理の終着点も驚くべき真相で、あっと言わされました。あと、
どの作品でも、すべての謎に論理的な説明がつけられる訳ではなく、言耶が一応の謎解きをして
奇怪な出来事の謎を解き明かした後も、必ず、ぞくりとするような怪異的な要素の謎が残される
ところがこのシリーズならではですね。今回も大いに楽しめました。


以下、各作品の感想。

『死霊の如き歩くもの』
四つ家の設定がまずもってミステリー的で面白かったですね。こんな家を建てた理由には
腹が立ちましたが。下駄の足跡が後ろ向きについていた理由には成程~って感じでした。
言耶の父が言った『塩の悪魔』がこういう意味だとは。なんとも回りくどい言い回しって気も
しますけどね。

『天魔の如き跳ぶもの』
原書房版の「凶鳥の如き忌むもの」に収録されていた短編だそう。読みたいと思ってたから、
ここで読めて良かったです。
奇妙な屋敷神を祀った箕作家で起きた子供消失の謎を巡る一編。子供の足跡が途切れていた
理由にはまたも成程~!でした(笑)。犯人の身勝手さにはムカムカしましたが。言耶に○○○
まで要求するし。出版社の著者インタビューで、作者が一番好きなシーンにその部分を挙げて
らっしゃいましたが(苦笑)。まぁ、確かになかなか見れない姿だとは思いますが^^;
最後、言耶が犯罪を暴いて一矢報いてくれてスカっとしました。

『屍蝋の如き滴るもの』
屍蝋化した木乃伊が祀ってある土淵家の池に浮かぶ弥勒島で起きた殺人。雪に残された足跡は
発見者と被害者のものだけ、といういわば雪密室もの。武器室にあるものを使った推理には
首を傾げたのですが、最終的な推理には納得。屍蝋化した木乃伊が現れる、というシチュエー
ションは想像するとかなり気持ち悪いものがありました・・・(><)。

『生霊の如き重るもの』
奥多摩の神戸地方にある谷生家で起きたドッペルゲンガー事件を描いた作品。先述しましたが、
横溝風の設定からして好みでしたし、ミステリーとしての出来も良かったですね。細かい伏線
がきちんと効いていてさすがでした。でも、毎度ながら、言耶の勿体ぶった謎解きにはイラっと
させられるんですけどね^^;小出しに小出しに、間違った推理を交えながら謎解きするので、
聞かされる方もイライラするでしょうねぇ。まぁ、そこがこのシリーズの面白さなんですけどね。

『顔無の如き攫うもの』
顔無(カオナシって言われると、ついつい千と千尋の神隠しに出て来たカオナシ
思い浮かべちゃったんですけど^^;空き地で起きた少年消失事件の言耶の謎解きにはぞーっと
しました。でも、少年が空き地に姿を消してからの二十分程度で、こんなことが可能かなぁ?
これが一時間位あるっていうならまだ納得出来るんですけど・・・。推理自体には納得できない
こともないのですが、時間的には無理があるんじゃないかと思いました。




相変わらず表紙がかっこいいですね。ちょっといつもより不気味さが控えめな気がするけど^^;
でも、表紙の絵は良かったんですが、各作品の扉の絵がどうもイメージに合わないように
感じて、好きじゃなかったですこういう絵ならない方が良かったなぁ。今まで、扉絵なんて
入ってなかったと思うんですけど・・・覚えてないだけ?^^;もうちょっと、耽美系の絵の
人に描いて欲しかったなぁ。二作目の『天魔~』なんて、扉絵でネタバレしちゃってる気が
するんですけど・・・いいのか、コレ?^^;
次はやっぱり、原書房の方のがっつり長編の本編が読みたいですね。