ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

中村ふみ/「裏閻魔」/枻出版刊

イメージ 1

中村ふみさんの「裏閻魔」。

時は幕末。長州藩士・一ノ瀬周は、新撰組に追われ瀕死の重傷を負うが、刺青師・宝生梅倖が掌に
彫った「鬼込め」と呼ばれる呪いの刺青で命を救われる。周は不老不死の運命を背負うこととなり、
明治から昭和へと激動の時代を刺青師・宝生閻魔として人目を憚るように生きていく。傍らには常に、
友人の遺児・奈津の姿があった。その奈津を狙うのは、姉の仇で同じ鬼込めの技を持つもう一人の
刺青師・夜叉。 少女だった奈津もやがて女として閻魔を意識しつつ、純愛を貫きながら彼の歳を
追い越し老いていく……。第1回ゴールデン・エレファント大賞受賞作(あらすじ抜粋)。


新刊で出た時に、書店で見かけて、とにかく売り出し方がすごかったので、気になっていた作品。
予約が多かったので、回って来るのに随分かかりました。何がすごいって、この作品、日米中韓
四カ国で一斉に同時発売され、ネット配信やらイメージソングやらプロモーションビデオやら、
発売と同時にたくさんのメディアで売り出しをバックアップされたようで。そもそも、ゴールデン・
エレファント賞とはなんぞや?と言いますと、日米中韓の出版社が共同で主催する、日本の小説を
広く世界に売りだして行こうという、国際的なエンタテインメント小説アワード、だそうな。
四カ国の審査員が審査するなら、他の国の小説も候補に入れるべきなんじゃ・・・とツッコミ
たい所ではありますが^^;

まぁ、とにかく、そんなご大層な賞が出来まして、その第一回の大賞に見事に選ばれたのが
この小説。そんな派手派手な売り出し方だったので、内容がしょぼかったら拍子抜けだよなぁ
と思ったのですが、これがなかなかどうして、面白かったですよ。そこそこの長編なんですが、
ぐいぐい読まされて、あっという間に読了しちゃいました。時代が幕末から最後は終戦間際まで
移り変わって行くので、最初は時代物っぽい雰囲気ですが、内容的には、ザ・エンタメ!って
感じなんで、とにかく読み易かった。その分、重厚さに欠けるきらいはありますが、そもそも
四カ国共通でウケるエンターテイメント小説、というのがコンセプトなので、これくらいの
ライトさで良いのでしょう。冒頭の新選組のくだりなんかは、他の国の人が読んで面白いのか
どうかはよくわかりませんが^^;

ただ、根底にあるのは不老不死の宿命を背負ってしまった一人の彫り師と、彼を慕う女性の
切ない恋愛模様であるので、その辺は万国共通で楽しめる要素なのではないかと。まぁ、恋愛
ものっていうには、語弊があるとは思うのですが(とにかく、じれったすぎる展開なので・・・
最後までイライラやきもきしっぱなしでした^^;)。
時を止めた男を生涯愛する、というのは、老いて行く女性からしたら、そりゃー、辛いですよ。
最後の奈津さんの手紙は、同性からしたら、痛いくらい気持ちがわかるだけに、切なかったです。
なんか、もうちょっと早くどうにか出来なかったのかなぁと思ってしまった。閻魔からしてみたら、
亡き盟友の忘れ形見という足枷が重すぎたのはわかるんですが・・・あの手紙で吹っ切れる位なら、
もっと早く行動に移せよ、とツッコミたくなりました・・・奈津さんがあまりにも可哀想です(T_T)。
でも、奈津さんが亡くなった後の閻魔ってほんとにどうなっちゃうんですかねぇ。惠子が奈津の
代わりに側にいてくれたとしても、心に空いた穴は埋まらないのでは・・・。最終的にはやっぱり、
同じ宿命を背負った夜叉と共に生きて行くことになるんですかね。お互いに相容れない存在では
ありますが。それとも、再び孤独に耐えきれなくて、突発的に誰かに不死の鬼込めをして同胞に
しちゃったりするのかな。夜叉とはやっぱり殺し合いの戦いを繰り返しながら、共存していくのかも。

基本的には、ヴァンパイアものみたいな感じですかね。同じ姿のままで、いろんな時代を生きて
行くっていう。いかにも、アニメ的な設定って感じもします。小説で発表するより、アニメで
発表した方が各国にはウケがいいかもしれない。
こういうネタは、割とどの国でも受け入れやすいのかもしれないですね。アメリカで流行った
『トワイライト』なんかもヴァンパイアものでしたし(小説もドラマも未体験ですが^^;)。
不老不死という題材は、古今東西どの国でも魅力的な題材なのかもしれないですね。
でも、他の国での評判はどうなんでしょうか。私は十分面白く読めましたけど。文章は取り立てて
文学的な表現とかがある訳でもなく、淡々とした感じですが、読みやすいので、エンタメ作家
としては十分合格点ではないかな。説明描写がちょっと不足気味な印象も受けたのですけれどね。
まぁ、説明描写をびっちり書かれてしまうと、それだけで読みづらさに繋がってしまうリスクも
あるので、こういう、ビジュアルを優先した作品なら、これくらいでちょうどいいとも云えるの
かも。
キャラがそれぞれに立っているので、映像化なんかはしやすいでしょうね。プロモーションビデオ
は多分アニメなんでしょうけど、どんな感じなのかちょっと観てみたいなぁ。小説の宣伝に
プロモビデオやらイメージソングがいきなり作られる、というのもなかなか珍しい試みですよね
(苦笑)。

作者は高校生が二人いる秋田県の専業主婦の方だとか。お子さんはさぞかし母親のデビューに
驚いたでしょうねぇ。しかも四カ国同時発売だし^^;まさに青天の霹靂、ってやつですね。
主婦でもデビュー出来るなら、私でも出来る・・・なんて思う程、私は単純で浅はかなヤツじゃ
ないですよっ^^;
何せ、作者の中村さん、投稿歴は20年だとか。鯨さんと同じくらい、デビューまでに苦労
されてるんですね(苦笑)。
第二作も注目したいと思います。



追記:ネット検索してましたら、本書のプロモビデオに行き辺りまして、観てみたらアニメ
ではなく実写でした^^;