ミステリ読書録

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北國浩二/「嘘」/PHP研究所刊

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北國浩二さんの「嘘」。

認知症の父と、その父を憎みながらも介護をする娘。その家に、一人の少年がいっしょに暮らし
始めた…。“二度読み必至”の長篇小説(紹介文抜粋)。


北國さんの最新作。この人の小説は、なかなか読ませる作品が多いので、毎回注目しています。
今回も、書店であらすじを読んで、これは面白そうだ、と思って楽しみにしていました。今回も、
とても残酷で、痛くて切ない作品でした。ただ、ラストだけは少し未来を感じさせる終わり方
だったので、読後感は悪くなかったです。突き落とされたように残酷な結末だった『夏の魔法』
に比べたら、読後に救いがあるところは良かったかな。ただ、瑕疵は多かったけれども、ミステリ
的には面白かった『リバース』に比べると、ミステリとしての完成度は低い。というか、ミステリ
要素はほとんどないと言っても過言ではないのでは。キモとなるのは、タイトルの『嘘』が意味
するところが本当は何だったのかがわかるエピローグ部分だとは思うのですが・・・個人的には、
この部分については、なんとなくそうじゃないかと思ってた所があったので、ああ、やっぱり、
って感じで、驚きはあまりなかったです。もちろん、その部分を読んで、改めて胸が締め付け
られるような、切ない気持ちに囚われたのも間違いないところではあるのですが。多分、ミステリ
として読まない方が、この作品に関してはいいのかもしれないです。ミステリ的な驚きを期待して
いると、ちょっと肩透かしな印象を受けてしまうと思うので。

ただ、ミステリ部分に期待さえしなければ、作品自体はとても心に触れるストーリーで、心に
沁みる感動的な家族小説として、十分読ませる作品になっていると思います。認知症の父と、
その父を憎みながらも介護することになった娘と、記憶を失った少年との共同生活。彼らが
次第に心を通わせ合い、本当の家族となって行く過程は心温まるものでしたし、それだけに
終盤でその平穏が一瞬にして崩されてしまう様が残酷すぎて、読むのが辛かったです。先の予測
がつけられやすいストーリーなのは間違いなく、その通りに進んで行くという意味では予定調和
な作品なのですが、それでも、父と娘の、娘と息子の、親子の関係が良くなって行く過程は感動的
で、彼らの幸せが続いて欲しいと願わずにはいられなかったです。特に、釣りや夏祭りに行って
みんなではしゃぐ場面がとても幸せそうで、楽しそうで、彼らの置かれた辛い境遇を忘れそうに
なりました。

孝蔵の認知症の症状が進んで行くのがとてもリアルなだけに、読むのがきつかったです。
孝蔵の日記の文章がだんだん崩れて行く様子は、アルジャーノンに花束をを思い出しました。
自分が自分でなくなって行くなんて、どんなに怖いことなんだろう。人間にとって、どれだけ
『記憶』が大事なものかが、痛いくらい良くわかりました。
孝蔵の友人の医者・亀田が、最後まで孝蔵を見捨てなかったことが嬉しかったです。亀田がいい人
すぎて、もしかして裏になにかあったら嫌だなぁと思っていたので。彼はあくまでも、最後まで
『善意の人』でした。『事件』が起きた後でさえ、彼らのことを見捨てなかったのだから。
彼の存在は、この作品の中で一番の救いだったかもしれません。




以下、一部ラストに触れる記述があります。未読の方はご注意下さい。













一番恐れていた『死神』が彼らの前に現れた時は、絶望的な気持ちになりました。それからの
展開もほぼ予想通り。ただ、その先は少し予想とはずれていたのですが。ある人物が大切な人を
守る為についた嘘に、胸が痛みました。被らなくていい罪まで被って。それでも、その人物が
誰のことも恨まず罪を受け入れたことが悲しかった。本当に罰せられるべき人が周りから哀れま
れる立場になり、ただ大切な人を守ろうと頑張った人が非難され罰を受ける。吉田修一さんの
『悪人』の時のように、『誰が悪人なのか?』という問いかけられたら、多分作品を読んだ
ほとんどの人が同じ人物(あるいはもう一人の方)を差すのではないでしょうか。彼らのした
ことは、本当に人間とは思えない、唾棄すべきものばかりでした。
元の家庭に戻らされた拓未のその後の人生は、再び酷いものになってしまったけれど、彼がそれに
屈することなく、強い意志を持って立ち向かったことが嬉しかったです。最後に彼がついていた
『嘘』を知ることで、彼がどれだけ人生に疲れ、逃げたいと思っていたかわかりました。それ程の
意志で、彼は嘘をつき続けていた・・・だからこそ、彼は9年間も耐えて待つことが出来たんで
しょうね。本当の『家族』になった二人が、これからどんな人生を過ごして行くのか、それも
読んでみたいな、と思いました。









血が繋がっていなくても、本当の家族になることが出来る。千紗子と拓未を見ていて心からそう
感じました。
紹介文の『二度読み必死』には多少首をかしげるところもありますが(間違いではないとは
思いますが・・・実際、私もラスト読んで、あるシーンだけ読み返してしまったので^^;)、
切なくやるせない、家族の物語でした。ここで出て来るメインの三人は、三人三様それぞれに
嘘をついていました。嘘をつくのは悪いこと。それでも、時には誰かを守るために、そして、
自分の幸せのために、嘘をつかなければならない時もあるのだ、と気付かせてくれるような
作品でした。