ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

畠中恵/「やなりいなり」/新潮社刊

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畠中恵さんの「やなりいなり」。

いつも妖たちで騒がしい長崎屋が、空前絶後の大賑わい! 鳴家よりも遥かに小さなお客に、
禍をもたらす恐ろしい神様たち、お喋り極まりない御仁や、触るととんでもないことになって
しまう子どもなど、「しゃばけ」史上最高の千客万来! さらに、全話に「レシピ」も付いてます。
今年も夏は「しゃばけ」の季節!大人気しゃばけシリーズ第十弾(紹介文抜粋)。


しゃばけシリーズ最新作。もう十作目になるんですねぇ。このシリーズは毎年一作づつ新作が
出ているみたいで(バンドワゴンシリーズみたいだね)、今年でシリーズ刊行十周年になるそう
です。だからといって、一太郎は大して年取ってはいないですけど^^;でも、一作ごとに
ほんの少しづつだけど、成長しているのは感じますね。ちっとも身体は強くならないですけれど。
そして、毎回一作ごとに趣向を変えてマンネリ化しないように工夫されているのもこのシリーズの
特徴。今回は、全編に何らかの『食べ物』が出て来ることで、統一感を出しています。そして、
冒頭でその食べ物のレシピがついているのですが、これがとっても可愛い書き方がされていて、
レシピ読んでるだけでくすりと笑えてしまう。このレシピのとこだけでも、ファンなら読んでて
楽しめると思う。特に鳴家ファンにはたまらないでしょう(笑)。だってね、土鍋に小豆粥を
十分煮るって書くのに、十匹の鳴家が、一匹づつ六十数える間(十分)煮る、とか書いてある
んですもの(笑)。鳴家が、大好物の小豆粥が出来ることにわくわくしながら、数を数えて
いる図が浮かんで、ほんわかした気持ちになっちゃいました(笑)。
一番食べてみたかったのは、タイトルの『やなり稲荷』かなー。鳴家の顔つきおいなりさん。
もう、想像しただけでニヤリとしちゃいますね。この時代にほんとにこういう料理が作られて
いたとしたら、これぞ『元祖キャラ弁てやつなんじゃないでしょうか(笑)。ちょっと
食べるのが勿体ない気もしますけど(笑)。
全体的に、今回は賑やかなお話が多くて、このシリーズらしいほのぼのした雰囲気で楽しく
読めました。ラスト一編だけは、切ない気持ちで読み終えたのですけれどね。


以下、各作品の感想。

『こいしくて』
長崎屋のある通町では近頃、恋の病が流行っていた。そして、長崎屋には、一太郎に頼みごとを
する為、数多の疫病神が次々と訪れていた。理由は京橋川にかかる京橋を守る橋姫がいなくなった
せいらしいのだが――。

前作の七之助の嫁取り話が現実に。ただ、展開は全く異なるものになりました。七之助の嫁候補の
名前が一太郎の胸を締め付けるところに胸がきゅんとしました。かなめさんとは、結局縁がない
ままだったのかぁ。もしかしたら、未来で会うことになるかもしれない、と思っていただけに、
ちょっと残念です。ラストも、ちょっと残酷な結末でしたね。こちらの神カップルも、縁が
なかったということなんでしょう。

『やなりいなり』
長崎屋に、幽霊が出た。幽霊は、自分の出自がわからないと言う。一方、最近江戸に大盗人が
やって来たという。幽霊は、盗人一味の一人なのか?

生霊になってまで、好きな女性の為に薬を手に入れようとした猪吉の一途さには頭が下がります。
現実に戻っても、上手く行って欲しいですね。
ラストで、鳴家たちがみんなで顔つきのやなり稲荷を作るところにほのぼのしちゃいました。

『からかみなり』
長崎屋の主人・藤兵衛が3日も連絡なしに帰って来ない。心配した一太郎は、父親がどこに
行ったのか妖たちと推理し始めるのだが。

みんな藤兵衛さんがいなくなった理由をあることないこと、酷い推理してましたけど、真相は、
藤兵衛さんってどこまでも人がいいんだなぁと思わされるものでした。こんなトンデモ
ないものの面倒まで見ようとするなんて^^;まぁ、過去に一度おたえさんを裏切ってした
ことは、許しがたい行為ではあるのですが。でも、ラスト一行読んで、なんだかんだで、
おたえさんにベタ惚れで頭が上がらないのがわかって、微笑ましくなりました。

『長崎屋のたまご』
あかね色の空から、長崎屋に丸いものが落ちて来た。空の青に似た青い玉は、鳴家たちの心を
魅了した。我が手に入れようと鳴家たちが争っている間に、青い玉は外に飛び出してしまった。
鳴家たちは、青い玉を追って捕まえようとするのだが・・・。

逢魔が時に生まれた魔たち、それぞれのキャラが面白かったです。魔物たちの兄弟ゲンカを
羨ましそうに見ている一太郎が切なかったです。松之助さんとは一生兄弟ゲンカなんかできない
でしょうからねぇ・・・。そもそも、一太郎とケンカが結びつきませんが^^;鳴家たちが
青い玉を追いかけている途中で会う大黒様や恵比寿様のキャラも良かったですね。鳴家たちに
かかると、神様も甘い黒海老大福になっちゃいましたけど(苦笑)。

『あましょう』
最近忙しくなった親友の栄吉と会えない日が続いた一太郎は、栄吉に会う為兄やたちに外出を
申し出た。なんとか外出を許可してもらい、栄吉の勤める安野屋に行ったものの、栄吉は忙しく
働いて、友と話すどころではなかった。しかも、菓子の配達を命じられた栄吉について行くと、
途中でトラブルに見舞われてしまい――。

一太郎は、ほんとに栄吉の存在を大事に思ってるんですね。栄吉とだんだん疎遠になるのではと
恐れる一太郎の気持ちが痛い程伝わって来て、こちらまで切ない気持ちになってしまいました。
きっと、好きな仕事に一生懸命打ち込んで頑張っている栄吉と、ただ長崎屋で寝ているだけの
自分とを比べて、二人の距離が離れて行くのが怖くて仕方ないのでしょうね。一太郎の側には
妖たちがたくさんいてくれるけど、栄吉の存在は、それらとは全く似て非なるものなんでしょう。
五一の正体には驚きました。こんな姿になってまで、友の前に現れたってだけでも、二人の間の
友情の篤さを感じます。けれども、五一と新六の友情の結末は悲しいものでした。一太郎と栄吉
は、こんな風になって欲しくないです。二人の友情が、ずっと続いて行くといいな、と思いました。





それぞれの話に出て来る食べ物がいちいち美味しそうでした。レシピがあるので、作って見る
のも良いかも?でも、それには妖たちを用意しないとね(笑)。キッチンタイマーじゃなくて、
時間(分数)を数える鳴家たちがいてこそ、楽しく、美味しく出来るのでしょうからね(笑)。