ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

新井素子/「・・・・・絶句 上下」/ハヤカワ文庫刊

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新井素子さんの「・・・・・絶句 上下」。

<上巻>
あたし、新井素子。19歳のSF作家志望の女の子。新人賞のために『絶句』ってタイトルの原稿を
書いている。読者が絶句するほどおもしろい話になるはずが、なぜか突然、小説のキャラクターたち
が実体化してしまった?! 滅法強いヒーローやマッド・サイエンティスト、超能力者の美少女風男子
や素子に瓜二つの人猫が、それぞれ現実世界で生活を始めて……23年ぶりの書き下ろし番外篇
「秋野信拓の屈託」と新あとがきを収録。

<下巻>
あたし=新井素子の小説のキャラクターたちが現実世界に実体化して以来、驚愕の事態の連続。
自宅全焼に誘拐騒ぎ、宇宙人に命を狙われるなど。その上、人間に虐げられた動物に同情した
キャラクターたちが動物革命を起こす。猫やライオン、カラスにゴキブリの大行進。混乱の原因は
素子にあるというけれど……いたいけな少女が偶然引き起こした絶句すべき大事件の行方は!? 
番外篇「すみっこのひとりごと」と新あとがきを収録(紹介文抜粋)。



本当に、ほんっとーーーに、久しぶりに新井素子さんの作品を読みました。読んだというか、
再読なんですが。この作品は、私が中学生の時に読んで、とにかく大好きで大好きで仕方なかった
作品です。内容とかすっぱり綺麗に忘れちゃってたんですけども、もう、大好きだったって覚え
だけはすごくあって。去年、文庫で復刊され、しかも復刊に当たって特別書き下ろしがついていると
知って、絶対絶対再読しよう!と決めてました。隣町の図書館で上下巻揃って置いてあって、
ようやく借りることが出来ました。

いやぁ、再読でしたが、やっぱり面白かったですねぇ。私、今はほとんどSF読まなくなっちゃい
ましたけど、中学の頃は一番読んでたジャンルがSFだったんですよ。といっても、海外のSFとかは
さっぱり、だったんで、もっぱら国内作家のSFですけど。今はなき朝日ソノラマ文庫の作品
なんかは大好きで。あと、平井和正さんとか菊地秀行さんとか、田中芳樹さんとか。その中で、
女性作家のSFというと、まず一番読んでたのがこの新井素子さん。まぁ、新井さんの作品は
SFだけじゃなくて、他のジャンルの作品もいろいろ読んでいたのですが。SFだとやっぱり思い出
深いのが星へ行く船とかグリーン・レクイエムとか。でも、その中でもいっちばん好き
だったのがこの・・・・・絶句だったんですよね。何が好きだったって、これの中に出て
来る森村一郎氏のキャラがとにかく大好きだったんです。中学生の私の心のヒーローだったん
ですよね。何せ、『今までに書かれたどの小説の主人公よりも強い』キャラなんですから。ほぼ
無敵の男なわけですよ。しかも、超絶美形。恋に恋する年齢の女子にとって、このキャラ持って
来られちゃったら、恋しない訳にいかないでしょう。ってことで、理想の男性像みたいなのが
一郎ちゃんだったんですよねー。
でもって、今回再読してみて・・・やっぱりかっこいいなぁ、とは思ったものの、あの頃の
ようなミーハー感覚ってのにはさすがにならなかったですね。今の私が読むと、ちょっと気障
過ぎるかなぁって感じがして。実は、もっと主人公のもとちゃん(この作品の主人公は、作者と
同じ新井素子という名前なのです)とラブな関係になるような気がしてたんですけど・・・
全然、そういう要素はなかったんですね^^;ただ、気になったのが、最初の方であもーるが
作ったラブ・エッセンスがそれぞれのキャラにかかっちゃう場面で、一郎にもかかってしまって、
その後でもとちゃんを始めに見た筈なのに、なぜか一郎がもとちゃんに恋しちゃったって描写は
ないんですよね。もとちゃんがかぶっても一郎にときめかなかったのは作者だからって説明が
あるからまだわかるんですが、同じようにかかった美弥がもとちゃんにときめいているのに。敢えて
一郎の内面はわからないままにしただけなのかな。ラストシーン読むと、実は・・・って感じが
なきにしもあらず、な気もするので(勘繰り過ぎかな^^;)。だって、ことあるごとに、絶対
もとちゃんを助けようとするし。信拓の旦那ともとちゃんの決裂騒ぎの時も、終始もとちゃん側に
ついてくれていたしね。そう考えると、やっぱり愛があるのかなぁ、とか。単なる生みの親への愛
だけじゃなくてね。

ストーリーは今読んでも、ツッコミ所満載なんですよ。動物園から動物を逃してやる行動から、
いつの間にか猫の革命騒ぎになってるし。時空の歪みとかその他のSF要素の部分も、終盤の
収拾のつけ方って思いっきりご都合主義以外の何物でもないですし。でも、それでもやっぱり、
面白かった。あの頃と同じに、夢中になって読んでる自分がいました。
久々の新井節も新鮮だったなぁ。当時、一人称の文章自体が珍しかったんですよね。独特の
合いの手とか、言い回しとかも。お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、今回の私の文章、
かなり素子節の影響、受けてます(笑)。でもね、多分、読んだら影響受けちゃうような文章
なのがわかって頂けるかと思います(苦笑)。

途中で、作中人物会議とかあるのも面白かったな。その会議で、本当の作者(ややこしいけど、
ヒロインのもとちゃんじゃなくて、本当の作家の新井さんの方ね)が乗り込んで来て、一人称が
三人称に変わっちゃうってのもすごかったな。とにかく、当時の私には、今まで読んだことのない
タイプの作品だったんですよね~。でも、今改めて読んでも、全然古臭さなんか感じなくて、
ほんとに面白かったです。こんな風に夢中になって読める小説が、私は一番好きなんだなぁって、
再認識させられた感じがしました。

あとがきで作者ご自身もおっしゃってますが、ほんとに作者が楽しんで書いてるのが伝わって
来ました。間違いなく、二十代の新井さんじゃなきゃ、書けなかった物語なんでしょう。
お話書くのが好き、自分の作ったキャラクターたちが大好きっていうのが行間から溢れ出ている
のがわかるから、読んでるこっちもその楽しさが伝わって来るんだと思う。だって、何より
自分が面白いって思って書かなきゃ、本当に面白い小説なんて書けないものね。

書き下ろし部分は、上下巻全部読み終えてから読んだのですが(あとがきでそう注意書きが
あったので)、できればもとちゃんが出て来るお話にして欲しかったなぁ。猫視点の方は、別に
いらなかったような・・・。信拓の旦那の方は面白かったけどね。

中学の頃、小説の面白さにはまって、貪るように本を読んでた頃の自分を懐かしく思い出しながら、
とっても楽しんで読めました。
最後に一言、もとちゃん風に言うなら、私、この作品、ほんと、やっぱり、大好きだな。