ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

西澤保彦/「赤い糸の呻き」/東京創元社刊

イメージ 1

西澤保彦さんの「赤い糸の呻き」。

結婚式場へ向かうエレベータ内で、指名手配犯を監視していた二人の刑事。突然の停電後に、
なんと乗客のひとりが殺害されていた。もっとも怪しいのは、手や服を血で汚した指名手配の
男だが……。表題作「赤い糸の呻き」をはじめ、犯人当てミステリ「お弁当ぐるぐる」、
都筑道夫の〈物部太郎シリーズ〉のパスティーシュ「墓標の庭」など、全五編を収録。
西澤保彦ワールド”全開ともいえる、著者入魂の短編集(紹介文抜粋)。


西澤さんのノンシリーズ短編集。こういうノンシリーズの短編集って、『パズラー』『動機、
そして沈黙』に続き、第三作目なのだそう。三作しか出てないとは、ちょっと意外な感じ。
前作(『必然という名の偶然』)が、お得意のレズもエロも出てこないまっとうな作品だった
ので、今回もそうかな、と半ば気を抜いて読んでいたら、エロはないものの、レズの方は
今回もしっかり健在でした(苦笑)。でも、そこを差し引いても(^^;)、なかなかに
読み応えのある短編集で、一作ごとの完成度はさすが。メインキャラ二人の何気ない会話
から、最後思わぬ着地点を見せる、フィニッシュの鮮やかさはお見事です。特に、表題作
にはあっと言わされました。動機に目が点。そそ、そんな理由で・・・?と呆気にに取られ
ましたが、意外性は抜群です。しかも、その上、最後の最後でまたも西澤さんらしいびっくり
なオチで締められていて、驚くと同時にその黒さと『らしさ』に苦笑しちゃいました(苦笑)。
多分一作目の『お弁当ぐるぐる』は、すごいタイトルに覚えがあるんで、どっかで読んでる
んじゃないかと思うのですが、全然内容忘れていたので、犯人も全然わかりませんでした^^;
これ、雑誌掲載時は犯人当て小説で、『読者への挑戦』ページも挟まれているのだけど、
結局推理出来ずにさっさとページをめくってしまいました(苦笑)。推理小説大好きだけど、
推理は全く出来ない私です・・・^^;;


以下、各短編の感想。

『お弁当ぐるぐる』
美形だけど、ちょっと人に言えない趣味がある音無警部と、彼を慕うあまり、モノローグで
なまりが出てしまう女刑事の佐智枝のキャラが面白かったです。全然咬み合ってない二人の
独白が笑えました。いくら美形で有能でも、こんな趣味を持ってる男は絶対私ならご免です。
被害者の胃が空っぽなのに、そばに置いてあったお弁当箱は空になっていた、という謎が
なかなか面白かった。真相はなかなかにブラック。途中で気付かれそうな気もしますけどねぇ。

『墓標の庭』
都筑道夫氏の『物部太郎シリーズ』パスティーシュ、だそうです。といっても、元ネタを
読んでいないので、私には比較が全然出来なかったのですが^^;夜中に自宅の前で幽霊が
出るからなんとかして欲しい、という依頼を受けたやる気のない探偵の話。依頼人が自宅の
二階でしていたことにはピンと来ましたが、彼女が自宅の庭を掘り返した理由には思い至り
ませんでした。ミイラ取りが・・・ってやつでしょうか。自業自得の結末でしたね。

『カモはネギと鍋のなか』
毎度おなじみの(^^;)、レズもの(苦笑)。といっても、事件の方の関係者ではなく、
刑事側ですが。自宅で同性(女)の恋人の手料理を堪能しながら、殺人事件の真相を推理
し合う女刑事。刑事よりも、一般人の恋人の方が鋭い着眼点を持っている、というのは
まぁ、王道の設定ですね。事件の真相は、ひたすら巻き込まれたユッキーが気の毒でした。
憧れの美雪先輩のここまでやるか!って感じの悪女っぷりがすごかったです。こんな女に
憧れちゃった時点で、ユッキーの運は尽きていたと言わざるを得ないでしょうね(苦笑)。
ま、自業自得な結末になったので溜飲は下がりましたけどね。

『対の住処』
映像がないので、ちょっとそれぞれの建物の位置関係がわかりづらかったんですが。海松(みる)市
は、前にもどこかの短編に出てきましたね。櫃洗市のように、西澤さんの中ではお気に入りの
架空の市のひとつなんでしょうね。犯人自体はさほど意外ではなかったのですが、動機には
唖然。身勝手もいいとこです。こんな理由で殺人を犯すとは・・・実際には有り得ないでしょう
けどね^^;;

『赤い糸の呻き』
石持浅海さんの『暗い箱の中で』に触発されて書かれたものだそうです。収録されている
『顔のない敵』は多分未読だったと思うので、これもおそらく未読で比較出来ないのが残念ですが。
先に述べたように、これはかなり完成度が高かったと思います。結婚式場のエレベーターの中、
一瞬の停電の隙に起きた殺人の謎を推理する究極のクローズドサークルもの。殺された人物も
意外でしたが、その犯人にもビックリ。更に、その動機にそれ以上にビックリ。そして、推理が
終わったラストにまた極めつけの一撃。最後の最後に西澤ワールド健在!を印象づけるオチで
落とすところにニヤリとしちゃいました。有り得ない~と思いつつ、ここまで書いてくれると、
ミステリー好きとしては爽快な気持ちになりますね(笑)。



意外なことに、西澤さんの作品は本書で55冊目になるそうなのですが、55冊目にして初の
東京創元社からの単独著作なのだそうです。確かに、西澤さんと東京創元社って全然結び
つかない^^;しかし、55冊も出してるんですね。それにもビックリなんですが。初期の作品
は結構読み逃しがあるから、全部は読めてないんですけどね。神麻さんシリーズも止まったまま
だしな^^;気長に読んでいこうっと。

西澤さんらしい、ちょっとブラックでひねりの効いた短編集でした。面白かったです。