ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

曽根圭介/「藁にもすがる獣たち」/講談社刊

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曽根圭介さんの「藁にもすがる獣たち」。

何が3人の人生を狂わせたのか! 大金を手にできるのは誰?
赤松寛治・59歳・サウナ店アルバイト
寛治が夜勤をしていたある日、店に不審な男が現れバッグを預けたまま消えてしまった。中身は
なんと大量の札束。バッグの中へ寛治の手が伸びる――。
江波戸良介・38歳・P県警牛ヶ沼署刑事
地元暴力団・郷田組に借金をしていた良介は、組長の呼び出しまで受けて、いよいよ生命の危機を
感じ始めていた。そこへ大金を背負った「鴨」の話が!
庄田美奈・32歳・主婦
外国為替証拠金取引で負債を抱えた美奈は、週2日、デリヘルで働いている。夫のDVに耐えながら。
そんな折、客の若い男に夫の殺害を持ちかけられ――(あらすじ抜粋)。


曽根さんの最新作です。奥田英朗さんの『最悪』を彷彿とさせるような、登場人物がひたすら
破滅への道を突き進んで行くタイプの群像劇。いやはや、読んでてどんどんイヤな気分になって
来るんですが、読む手が止められなかったです。メインの登場人物は三人。元理髪師で、サウナ店
の中年アルバイト・赤松。借金が嵩んで暴力団から督促を受け追い詰められている極悪刑事の
江波戸。自らが背負った借金のせいで夫からのDVを受け続け、製菓工場でのアルバイトの傍ら
デリヘルで働く主婦の美奈。三人三様、お金に困って生活は苦しく、追い詰められて人生が
最悪の方に進んで行く。赤松だけはまだ同情の余地があるのですが、他の二人は全く同情の
余地はなかったですね。まぁ、美奈は夫からの理不尽なDVの部分だけは可哀想でしたけど。
そういう意味では、江波戸が一番印象最悪だったかな。コイツに関しては全くもって好感の
欠片も持てなかったです。やることなすこと最低!!って言いたくなりました。こんなヤツが
刑事だなんて、世も末だと思ってしまいました。終盤、散々痛い目に遭わされて来た崔英姫に
再会して、再び彼女の甘言に騙されて欲に溺れて行くところには、あまりの懲りなさ加減に
呆れ果てました。ま、彼の末路に関しては、完全に自業自得だと思いましたね。

それにしても、特筆すべきは、最低最悪の三人の破滅人生を描きながらも、時系列を細工して、
絶妙な構成のミステリーになっているところ。赤松の勤めるサウナ店にやって来たガラの悪い
男が、まさかあの人物だったとは。全く読めませんでした。それ以外にも、意外な人物が意外な
人物と繋がっていたりして、終盤、その人物関係とからくりがわかるくだりは圧巻。全く無関係
に思われた三人の人生が一本に繋がるところはお見事です。系統としては、『あげくの果て』
収録の『熱帯夜』に近いかな。トリッキーな構成力には脱帽でした。とことん突き放したような
黒さも曽根さんらしいですね。ただ、嫌な人間ばかりが出て来ますが、最後の最後だけは、
ほんの少し救いが見えて、読後感は意外に悪くなかったです(まぁ、取り方によるでしょうが^^;)。
こういう、構成の見事なミステリーは大好きなので、とても面白かったです。前作の『図地反転』
はラストが非常に消化不良で不満が残る作品だったのですが、今回は最後までしっかり計算された
構成になっていて、読み終えて非常に充足感がありました。
ただまぁ、ほんとに、イヤ~~~~な話でしたけどね・・・^^;;こんな人生だけは送りたく
ないよって思いながら読んでました。お金に目が眩んで悪事に手を染めると、ロクなことに
ならないよってことですかね。人間、欲をかいちゃいけないってことでしょう。怖い、怖い。






以下、結末に関してのネタバレあります。未読の方はご注意を!
















ところで、英姫が最後どうなったのかが書かれなかったのが気になります。彼女の言動には
嫌悪しか覚えなかったので、お金と一緒にあのまま火にまかれていて欲しいと思ってしまい
ます。でも、あそこで遺体が発見されたら、それはそれで赤松も説明に困るでしょうね・・・。
あと、赤松の母親はほんとにボケてたんでしょうか?英姫と対峙する彼女は赤松よりも
頼りになる位の逞しさで、とてもボケてるようには思えなかったのですが・・・。嫁に対する
嫌がらせでボケたフリしてたんですかねぇ・・・それはそれで、救いのない真相ですけどね・・・。









久しぶりの曽根作品でしたが、構成力抜群の力作で堪能しました。奥田さんの『最悪』『無理』
のような破滅型転落人生もの(つまりこの上もなくイヤな話ってことです(笑))がお好きな方には
是非お薦めしたいですね。