ミステリ読書録

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太田忠司/「無伴奏」/東京創元社刊

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太田忠司さんの「無伴奏」。

そこに、父がいた。父は眠っていた。私の記憶にある父の顔ではなかった。痩せ細り、肌はかさついて
いる。髪は乱雑に刈られ、髭もまばらに剃られていた。口をわずかに開き、寝息を立てていた。
職業柄、見慣れている姿のはずだった。毎日同じような老人を何人も相手にし、世話をしているの
だから。なのに今、私はひどく動揺していた──。父危篤の急報を受け、二十数年ぶりに実家に
戻った阿南は、予想もしなかった両親の謎に直面することになる。十三年ぶりに描かれた阿南
シリーズの新作にして、現時点における著者の最高傑作(紹介文抜粋)。


太田さんの最新作・・・なのだけど、あちゃー、やってしまった。これって、シリーズもの
だったのですね~。てっきりノンシリーズだとばかり思って、新刊出たんだーと深く考えずに
予約してしまいました。失敗した~^^;
ただ、作品としては一作で完結している話なので、単独で読んでもそれほど問題はなかった
ですけどね。しかも、このシリーズ、13年ぶりの続編刊行なんですね。なんだか、著者の
ライフワーク的なシリーズって感じ。主人公の阿南も、シリーズごとに職が変わったりしてる
みたいですし。リアルタイムで年を取ってるってことなのかな。元刑事だそうで、辞めた
理由もかなりの訳ありみたいですし、ちゃんとシリーズ一作目から読んでみたいです。

本書に関しては、阿南の父親の介護問題が根底にあるので、終始暗いトーンで作品が
進んで行きます。阿南の心情も重苦しい感じなので、読んでいてずっと息苦しさを感じて
いたような気がします。私の両親もいい年なので、介護問題のことはさほど遠い未来という
訳ではないと思うので、いろいろと考えさせられるところが多かったです。もし、自分の
親が、阿南の父親と同じような症状になったら・・・とか、いろいろ考えてしまって、ちょっと
暗鬱とした気持ちになりました。勉強にもなりましたけどね。

ミステリ的にはそれほど派手な展開がある訳ではありませんでしたが、終盤、阿南と父親が
一緒にお風呂に入るシーンは、切ないけれども親子の絆を感じて、とても心に沁みました。
タイトルの無伴奏の意味も深いですね。無伴奏の人生なんて味気ないものです。阿南が
言う通り、人と人とが響き合って奏で合う瞬間だって、きっと長い人生にはたくさんある
筈です。

事件の真相もやるせないもので、阿南にとっても苦い結末になりましたが、周りの意見や
女性からの誘惑に屈することなく、自分の信念を貫くブレない阿南のキャラは好感が持てました。
もう少し、肩の力を抜いて、楽に生きてもいいのにな、とも思いましたけれど。阿南自身が
もっと、他人と交じりあって曲を奏でる人生を歩んで欲しいな、と思いました。まぁ、彼の
キャラだと無理そうですが^^;

重いテーマでしたが、とても考えさせられましたし、心に残る作品でした。
阿南の若かりし頃の活躍も読んでみたいです。彼は若いころからあんな感じだったか知りたい。
明るい青年だった時もあったのだろうか・・・。それとも、やっぱり無口で朴訥な感じだった
のかな。彼のことがもっと知りたくなりました。

藤森シリーズとも繋がっているみたいですが、残念ながらそっちも未読なんですよね~^^;
それにしても、藤森シリーズってほんとにいろんな作品と繋がってるんですねぇ。読みたい
けど、図書館入ってないんですよね~・・・^^;俊介君シリーズも止まったままだし、
太田作品はまだまだ未読がいっぱいあるので、少しづつ読んで行きたいですね。