ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

西澤保彦/「彼女はもういない」/幻冬舎刊

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西澤保彦さんの「彼女はもういない」。

母校の高校事務局から届いた一冊の同窓会名簿。資産家の両親を亡くし、莫大な遺産を受け継いだ
鳴沢文彦は、すぐさま同学年の比奈岡奏絵の項を開いた。10年前、札幌在住だった彼女の連絡先が、
今回は空欄であることを見て取ったその瞬間、彼は連続殺人鬼へと変貌した。誘拐、拉致、凌辱
ビデオの撮影そして殺害。冷酷のかぎりを尽くした完全殺人の計画は何のためだったのか―。
青春の淡い想いが、取り返しのつかないグロテスクな愛の暴走へと変わるR‐18ミステリ
(紹介文抜粋)。


西澤さんの最新作。今回は長編です。いやー、この上もなく、西澤さんらしいミステリと
言っていいんじゃないでしょうか。同窓会名簿から始まるミステリって、確かちょっと前に
氏の作品で読んだ覚えがあるんですよね。読んでて妙に既視感が・・・。どの作品に収録
されていたのか、はたまたアンソロジーだったのか、なんか記憶がごっちゃになってますが^^;
もしかして、西澤さんの作品じゃなかったのかな。でも、西澤さんだったと思うんだけどなぁ・・・。

紹介文に堂々と『R-18ミステリ』とか書いちゃってることでもわかると思うんですが、
今回は結構なエログロミステリです・・・。っていうか、鬼畜ミステリ?犯人の冷酷無比な
犯行方法に気分が悪くなりました。自分が犠牲者になったら・・・と思うと、本当に怖気が
走ります。悪魔の所業です。女性として、こういう犯罪は一番許せないです。作品の大部分が、
犯人のそうしたエグい犯罪描写なので、かなりの嫌悪感と戦いながらの読書でした。やっぱり、
西澤さんとエロとは切っても切り離せないのでしょうか・・・^^;
もう一つのアレの方はさすがに今回は出てこないだろう、と安心しきっていたらば・・・最後の
最後にしっかり出てきました^^;;やっぱり、こっちも欠かせないのかー!と脱力。なんか、
最近の西澤作品のレビューでは、この二つが(作中にあってもなくても^^;)柱となって記事が
作成されている気がして仕方ありません・・・(言及しない訳にいかない作品ばかりなんだもの^^;)。

最後の最後までとことん救いがなくて、読後感も最悪なんですが、ただ、ミステリ的な観点から
見ると、面白かったです。最後にあっと言わせるようなある事実が明かされて、犯人を絶望の淵に
立たせるところが一番の読み所でしょうか。犯行動機にも唖然。あまりにも身勝手過ぎる理由
でした。ただ、こういう動機の作品は過去に何度か読んだことがあるので、それほど目新しさ
というものは感じなかったのですが。リアリティっていう意味でもちょっと、ね。まぁ、思い込み
の激しい人間って何するかわからないから、こういう思考回路になっちゃうこともあるのかも
しれませんが・・・。それにしたって、こんな理由で、あれだけのおぞましい連続殺人を計画し、
実行するっていうのは、やっぱり異常です。皮肉なラストは、完全に自業自得、因果応報って
やつでしょう。




以下ネタバレあります。未読の方はご注意ください。
















それにしても、犯人の当初の思惑通り、重大犯罪を犯してテレビで放映された結果奏絵と会えた
として、彼は一体どうするつもりだったんでしょう。ただ、彼女と会えればそれで満足だったのか。
ただ、彼女の消息を知る為だけに、あそこまで手の込んだおぞましい犯罪を犯したなんて、
狂気の沙汰としか思えません。
あと気になったのは、奏絵はなぜ、自分の顔を整形する際、仲間の誰かの顔にしたかったんで
しょうか。『特定の誰か』ではなく、『三人のうちの誰か』の顔にと希望したことが不思議でした。
















まぁ、なんだか腑に落ちない部分もあったのですが、西澤さんらしい皮肉で救いのない黒オチ
にどーんと落とされた気持ちになりました。嫌な話ですが、ミステリとしては素直に面白かった
と言えると思います。この上もなく不条理な話でしたけどね^^;
最後まで読むと、タイトルの意味も胸に迫って来ると思います。虚しさとやりきれない苦さ
だけが読後に残りました。