ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

森晶麿/「黒猫の遊歩あるいは美学講義」/早川書房刊

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森晶麿さんの「黒猫の遊歩あるいは美学講義」。

でたらめに描かれた地図、持ち主を失った香水、虚空に流れる音楽──美学探偵「黒猫」の講義で
解き明かされるのは、六つの謎に秘められた人々の時間だった。第一回アガサ・クリスティー
受賞作(紹介文抜粋)。


第一回アガサ・クリスティー賞受賞作・・・と言われたら、ミステリ好きが読まない訳には
行かないですよねぇ。ちょっと不思議なタイトルと、可愛らしい表紙で、書店で見かけた時に
とても気になった作品。その上アガサ・クリスティー(←しつこい)。否が応でも期待は
高まるってもんです。

やー、これはもう、私の好みど真ん中!って感じでした。面白かった。連作短編形式って
いうのも好きですし、探偵役の『黒猫』のキャラや、その付き人の『私』との微妙な距離感
なんかも良かった。黒猫は美学の教授であり、『私』はポーの研究者である為、二人の会話
は過分にして専門的なので、その辺でとっつきにくさを感じる人もいるかもしれませんが、
読みにくさは全くないですし、私はそういう部分も大学の講義を聞いているような気分になれて
面白かったです。まぁ、半分もその内容は理解してませんけど^^;;美学の定義自体がよく
わからないしなぁ。美学者って言われても、一体何を研究してるのかさっぱりイメージが湧かない
んですよね・・・^^;
ただ、『私』のポーの研究の部分は素直に感心しながら読んでました。中の一作に出て来る
ポーの『大鴉』の詩は私も大学でちょっとかじったりしてましたしね。一作ごとにポーの
有名な作品が取り上げられているところも良かったです。読んでない作品も入っていたので、
ちゃんと読まなきゃな~って思いました^^;

ミステリとしてもなかなか面白かったのですが、ちょっと謎解きは強引というか、真相で
明らかになる人間関係がご都合主義過ぎるところは気になりました。一作二作ならまだ驚けるし
感心も出来たのですが、ほとんど全部の作品でそれがあるので、さすがにやりすぎな感じは
否めなかったです。




以下、一部作品のネタバレがあります。未読の方はご注意ください。











特に第三話の『水のレトリック』の、香水をいろはに依頼した男の正体は、偶然が過ぎるだろう、
とツッコミたくなりました。それに、いくらなんでも、そんなに長年同じ想いを引きずり
続けてるってのは現実的ではないよなぁ、と思いました。それに、高校生の女の子といえば、
高価な香水瓶の方にこそ、興味を示すんじゃないでしょうか・・・。それを捨ててしまう、
というのはあまり納得出来る説ではなかったです。親に見つかることを恐れてっていうのも、
その年頃の女の子ならどこかに隠すことの方を考えるんじゃないのかなぁ。

先に述べたように、どの話でも、主要登場人物の人間関係が謎解きに関わっている所は
ちょっとご都合主義的に過ぎるように感じました。意外な人物関係で驚かせるよりも、
ミステリの真相そのもので驚かせる作品がもう少し入っていたら良かったかな。













気になる点もありましたが、トータルでは非常に楽しめた一冊。特に、黒猫のキャラが良いです
ね~。若き美学教授、細身長身のイケメンにして、クールで毒舌家。その上、料理も出来て、
ピアノも弾けちゃうって、パーフェクトすぎでしょ^^;どこぞの少女マンガのキャラクターかと
思いましたよ(苦笑)。
最後の第六話のラストがまた乙女心をくすぐる終わり方で。途中に出てきた万華鏡がこんな
素敵な伏線になっていたのか~!とニヤニヤしちゃいました。
ぜひぜひ、これは続編を書いて頂きたい。黒猫の真意が知りたいですもの。

文章や装幀もかなり好み。作品全体に美的センスが溢れているというか。読んでると、自分好みの
ポイントが次々出て来るので、とってもワクワクしました。
今後の活躍に期待したい新人さんですね。