ミステリ読書録

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三羽省吾/「Junk 毒にもなれない裏通りの小悪党」/双葉社刊

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三羽省吾さんの「Junk 毒にもなれない裏通りの小悪党」。

都内某刑務所前。つぶれかけた粗末な飯屋がある。そこの手伝いて、刑務所を見張り、ある男が
出所したら知らせてくれと頼まれた俺。ヤバさを感じながらもおいしい条件に承諾したが、案の定、
面倒なことになっていく…。善人ではない。かといって悪人でもない。強かだけど時に脆い。そんな
わたしたちを見つめ、見守ってくれる傑作小説集。「指」「飯」の2編を収録(紹介文抜粋)。


三羽さんの最新作。二作の中編が収めまれていますが、個人的には後の『飯』の方がずっと
好きでしたね。どちらもタイトル通りの小悪党たちが活躍する物語ではありますが、一作目の『指』
は掏摸(スリ)という本物の犯罪者たちが主人公なので、やっぱり全面的に彼らの行動を肯定する
ことはできかねました。警察官が大規模な窃盗団をあぶり出す為に、掏摸グループの後押しを
するって部分も、ちょっとリアリティを感じなかったですし。結末もちょっとあっけない感じが
しました。ただまぁ、主人公が加わることになった掏摸グループのメンバーたちは個性的で、
小悪党たちの割には仲間への情が厚いところなんかは良かったですけどね。でも、やっぱり
掏摸は唾棄すべき犯罪行為ですから。どんなに鮮やかな手口だろうが、感心は出来ないですし、
彼らに共感も覚えなかったですね。

一方『飯』の方は、月額30万という高報酬だけれども、その分怪しげなバイトをすることに
なった青年が主人公。バイト先は刑務所前の寂れた飯屋。雇い主の無愛想なオッサンが一人で
切り盛りする飯屋でアルバイトを始めた矢先に、当の雇い主が心筋梗塞で倒れて入院。たった
一人で飯屋を存続させなければならなくなってしまった主人公の紆余曲折が描かれます。主人公
のタクミが、その場のなりゆき任せなのに、どんどん寂れた飯屋が立て直されて行く過程がすごく
痛快でした。タクミにメニュー改革のアイデアを持ちかけるアキのキャラも良かったです。
いくらなんでも、バイト初めて二日目で一人で食事処を切り盛りすることが出来るものかと
ツッコミを入れたくはなりましたけど^^;
自分には何もない、何も出来ないと卑下するタクミだけれど、短い期間で人が来なくなった
定食屋を行列の出来る人気店にしてしまうなんて、普通の人が出来ることじゃないと思います。
タクミの商才と料理の才能は天才的なんじゃないかと思いました^^;
タクミに仕事を持ち込んだ若造を中心とした人間関係の真相も良く出来ていて感心しちゃいました。
ほんと、三羽さんって、ミステリ書いても面白いと思うんだけどなぁ。金庫に入っていたメッセージ
がわかるくだりなんかも、なかなか感動的で良かったです。これ一作の完成度はかなり高いと思う。
アキとどうなっちゃうのか一番気になっていたのですが、そこも良い終わり方でほっとしました。
端から見てると、タクミとアキって、すごくお似合いのカップルだと思うので。タクミは最初は
情けないヒモ状態でしたけど、なんだかんだ言って根は真面目だから、与えられた仕事はきちんと
やるし、カッとなりやすい性格だけど、意外に情に厚いところもあるし。文句いいつつ面倒見も
良いですしね。なかなか好感の持てるキャラでした。他の脇役キャラも良かったですね。飯屋の
オヤジさんが帰って来ても、タクミにはずっとバイトを続けて欲しいなぁ。っていうか、
お客さんの為にもそうするべきだと思う^^;タクミのお料理はほんとにB級グルメっぽくて、
美味しそうでした。アキ考案の新メニューは家でも実践出来そうだな~と思いました。

二作目で出て来たヤスエさんは、一作目で話題に上った伝説の鍵師のことなんでしょうね。
ちょっとしたリンクに嬉しくなりました。

タイトルに合せてなのか、本文の紙質もわら半紙風で、ちょっとジャンクっぽさを演出してる
ところがいいですね。

三羽さんの絵描く小悪党たちって、なぜか憎めず、痛快に読めるんですよね。キャラが生き生き
してるから、読んでて小気味良いというのかな。実はタイトルと装幀の感じから、あんまり期待
しないで読んだのですが(おい)、思ったよりもずっと面白かったです(特に『飯』の方ね)。