ミステリ読書録

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鮎川哲也/「太鼓叩きはなぜ笑う」/創元推理文庫刊

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鮎川哲也さんの「太鼓叩きはなぜ笑う」。

私立探偵の「わたし」がバー〈三番館〉で目下頭を抱えている事件の話をすると、静かに聴いていた
バーテンが忽ち真相を破する。最終行の切れ味が素晴らしい「竜王氏の不吉な旅」など五編を収録。
安楽椅子探偵譚、三番館シリーズ第1集(紹介文抜粋)。


かねてから読みたいと切望していた鮎川さんの三番館シリーズ。隣町図書館に文庫が置いて
あったので、いそいそと借りてみました。
久々の鮎川さんでしたが、やっぱり良いですね~。本格ミステリの王道中の王道って感じで、
本格テイストを堪能しました。それぞれのミステリのオチは、読んだことがあるようなものが
多いけれども、それは、鮎川さんの影響を受けた作家たちの作品を読んでるからなんだと思います。
時代的には断然こちらの方が先なのでしょう。きっと、書かれた当時に読んでいたら、もっと
もっと新鮮な驚きがあったんだろうな~。まっさらの状態で読んでみたかった気もしますが、
そうでなくても十分楽しめました。

鮎川さんご自身があとがきで触れてらっしゃいますが、持ち込まれた謎を話を聞いただけで
バーテンが解き明かす安楽椅子形式は、アイザック・アシモフ黒後家蜘蛛の会シリーズ
を彷彿とさせます。ただ、鮎川さんは意図した訳ではなく、たまたま似てしまったとおっしゃって
ますけれどね。ここで謎解きをするバーテンは、アシモフのヘンリーとはまた全然キャラが違って、
もうちょっと愛嬌のあるタイプかな。こういうバーが舞台のミステリのバーテンは、大抵カクテル
作ったりするのも上手なものですが、三番館のバーテンは、謎解きは一級品だけれど、カクテル
作りはあまり上手くない、という設定なのが面白いです。謎を持ち込んで来る探偵とのコミカルな
やり取りも楽しく、しっかり本格テイストが入っている割に気軽に読めるところも良かったですね。
本書に収録された作品はアリバイトリック崩しばかりですが、今後のシリーズはいろんなトリック
ものが収録されているのだとか。他の作品を読むのも非常に楽しみです。本格ミステリ好きならば、
なかなかに楽しめるシリーズではないでしょうか。


以下、各作品の感想。

『春の驟雨』
電話帳で片っ端から『佐藤』性を探して、証人を見つけ出すくだりは、ちょっと無理があるのでは
ないかなぁ、と思いましたが、青いペンキのくだりとか、被害者をお風呂に沈めた理由などは、
なるほどなぁ、と思いました。最後に探偵が容疑者を追い詰めるくだりもいいですね。

『新ファントム・レディ』
『北京仙館』での体験を誰も証言してくれる人がいないのは何故なのか、という謎に関しては、
割とすぐ気がついてしまいました。アイリッシュの『幻の女』が読んでみたくなりました。
しかし、ピンタンフールー、赤い団子って書いてますけど、中身はフルーツなんですよね。
団子って言われちゃうと、何か違うものを想像しちゃってイメージしずらかったです^^;

竜王氏の不吉な旅』
トリックそのものよりも、竜王氏が旅した工程の方が細かく考えてあって面白かったです。
篠島(死の島)、白骨温泉、通夜島、厄神駅・・・よく、これだけ不吉な地名を揃えたものです^^;
それぞれどんな場所なのかは気になりますけど、あんまりこういう旅程で旅をしたくはないよなぁ、
と思いました・・・(なんか不吉なことが起こりそう^^;)。ラスト一行の落とし所は良かった
ですね。

『白い手黒い手』
なんか、無実の人に罪をなすりつける話が多いですね^^;主人公がハメられて、ホモに
捕まっちゃうくだりが笑えました(笑)。H.Cのイニシャルが別の意味を持つトリックは、割と
良く使われるものですね(知識がないので推理出来なかったですけど・・・^^;)。白い手
黒い手の謎は、え、そんな理由?と思わなくもなかったかな^^;○○○○って、ほんとに
そういう風になるものなんでしょうか?^^;

『太鼓叩きはなぜ笑う』
タイトルの意味がわかるくだりは、もう少し深い意味があるのかなと思ってたので、ちょっと
拍子抜けしたところはありました。あんまり、謎解きの本筋には関係なかったような^^;
でも、タイトルでおや?と思わせてくれるところはやっぱり上手いですね。最後、真犯人が
明かされるものの、このオチだと、この事件そのものは迷宮入りになっちゃうってこと
なんですかね。波岡氏の潔白は証明されたんでしょうか。



ちょっと気になったのは、主人公の探偵が仕事の時は禁酒だと言ってる割に、三番館では毎度
バイオレット・フィズを飲んでるところ。バイオレット・フィズだって立派なお酒じゃないのか?
とツッコミたくなりました(笑)。バーテンの推理で、自分の株をしゃあしゃあと上げちゃう
辺り、なかなか強かな性格だなーと思いました(笑)。