ミステリ読書録

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池井戸潤/「ルーズヴェルト・ゲーム」/講談社刊

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池井戸潤さんの「ルーズヴェルト・ゲーム」。

「一番おもしろい試合は、8対7だ」野球を愛したルーズヴェルト大統領は、そう語った。監督に
見捨てられ、主力選手をも失ったかつての名門、青島製作所野球部。創部以来の危機に、野球部長の
三上が招いたのは、挫折を経験したひとりの男だった。一方、社長に抜擢されて間もない細川は、
折しもの不況に立ち向かうため、聖域なきリストラを命じる。廃部か存続か。繁栄か衰退か。
人生を賭した男達の戦いがここに始まる(紹介文抜粋)。


池井戸さんの直木賞受賞後第一作。いやー、ほんと、はずさないですね、池井戸さんは。今回は、
廃部寸前の社会人野球部にスポットを当てつつ、しっかり企業内部の人間関係にも肉薄した
熱き企業小説でした。相変わらず、いろんな人の視点に立って、その人の立場ごとの心理描写
が描かれているので、最初は嫌な人間だと思ってた人が、実は陰ではいい人だったりして、完全な
悪人が出て来ないです。まぁ、取引企業や競合企業の人たちは嫌な人たちでしたけど。そういう
嫌なヤツらがいるからこそ、主人公側である青島製作所の人たちのキャラの良さが際立つのです
けどね。相変わらず、キャラ造形が絶妙なんですよね。野球部のメンバーたちはもちろん、会社の
人間たちもみんなそれぞれに魅力があって憎めない。リストラする側に立つ人物も、会社存続の
為にやむを得ず苦悩しながら人員を決めているのがわかるから、非道いとかそういった感情には
あまりならなかったですね。むしろ、彼らがリストアップした人物たちの勤務態度を鑑みれば、
リストラされても仕方ないんじゃない?って思えたし。これが、日頃から真面目で一生懸命
働いてる人を対象にされちゃうと、理不尽な気持ちにもなってしまうところなのだけど。それで、
一時野球部の新人ルーキーにして、派遣社員の沖原君の心ない派遣切りには腹が立ったりも
しましたが。でも、ある人物の機転のおかげで乗りきれてほっとしました。

中堅の電子部品メーカーである青島研究所は、不況の煽りを受けて会社存続のピンチに立たされ
ます。取引企業会社から無理な要望を叩きつけられ、銀行からは貸し渋りの末大幅リストラを要求、
ライバル会社からは合併話を持ちかけられる・・・次から次へと頭の痛い問題が山積。社長を
始めとする幹部たちは苦境に立たされます。当然、リストラの筆頭は年間三億円の予算で存続
させている野球部。野球部の部長・三上や、マネージャーの古賀は、なんとか野球部を存続
させようと頑張るけれども、事態は少しづつ深刻な状況に陥って行く。それでも、青島製作所の
社員たちはみんな、それぞれに自分の出来ることを頑張って、状況を打開して行きます。今回も、
それぞれの問題の行く末は、予定調和と言えなくもない。でも、池井戸作品はこれでいいんです。
いや、こうであって欲しいんです。本当に頑張ってる人たちが、汚い手を使って成功しようと
するような人間たちに負けるなんて悔しいもの。だから、終盤の展開には何度も胸が熱くなりました。
やっぱり、最後の野球の試合が良かったですね。青島製作所のみんなが、野球の試合を通して
ほんとに一つに団結しているのがわかって嬉しかったです。沖原君、かっこよかった!過去の
確執がどうとか、そういうことを超越して、無心になってマウンドに立つ凛とした姿が素敵
でした。確執相手の如月なんかよりも、よっぽど人間的に魅力的ですよね。

青島会長も、細川社長も、人情味があっていいキャラだったんですけど、個人的にぐっと来た
のは、笹井さんですね。最初は野球部を廃部に追い込もうとしていてムカつくキャラだったん
ですけど、合併話をあっさり蹴ったところで見直しちゃいました。臨時株主総会での城戸志眞
からの質問の答えが胸を打ちました。彼は彼で、本当に青島製作所が好きなんだろうな。
あと、応援団のメンバーたちもみんな熱くていいキャラでしたね。

最後の最後、会社が持ちなおして、野球部もこれで安泰・・・かと思いきや・・・な結末
だったので、なんで、どーして!って思いながら読んでたんですが・・・なるほどー、こういう
終着点でしたか、って感じでした。まぁ、その人物が何か手を貸してくれそうな感じはして
たんですけどね。

あと、舞台が地元だったので、なんだか青島製作所にすごい親近感湧いちゃいました。私の
地元って、結構大きな会社が多いんで(○芝とか○ECとかサ○トリーとかね)、ほんとに
こういう社会人野球部とか抱えた会社も実在しそうで、なんだかリアルに感じました。


ちなみに、タイトルのルーズヴェルト・ゲーム』の意味ですが、あらすじにも書いてある
通り、ルーズヴェルト大統領が『野球で一番面白い試合はスコアが8対7の試合だ』
言った言葉から、そういう試合のことをルーズヴェルト・ゲーム』って言うらしいです。
へー。野球あんま興味ないんで、全然知らなかったです。勉強になりました(笑)。


今回も、気持ち良く読み終えられました。スカッとしたい時には、池井戸作品が一番ですね。
面白かったぁ!