ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

アガサ・クリスティー/「アクロイド殺し」/ハヤカワ文庫刊

イメージ 1

アガサ・クリスティーアクロイド殺し(羽田詩津子訳)」。

深夜の電話に駆けつけたシェパード医師が見たのは、村の名士アクロイド氏の変わり果てた姿。
容疑者である氏の甥が行方をくらませ、事件は早くも迷宮入りの様相を呈し始めた。
だが、村に越してきた変人が名探偵ポアロと判明し、局面は新たな展開を…驚愕の真相で
ミステリ界に大きな波紋を投じた名作が新訳で登場(紹介文抜粋)。


今月の一冊。クリスティー作品の中でもかなり物議を醸した問題作と言われる作品。遥か
昔に読んではいたのですが、いろんなところで衝撃的なラスト、みたいに紹介されてても、
全くその内容が思い出せず、ずっと気になっていたので、今回再読してみました。
再読とはいえ、全く内容を覚えていなかった為、初読と同じように読めたのは良かったの
ですが・・・犯人、途中で(といっても終盤の方ですけど)なんとなく気付いてしまって、
それほどの衝撃を受けることが出来ませんでした^^;;犯人のある趣味が出て来たところも、
いかにも伏線っぽいなーと思っちゃいましたし(実際、伏線だった^^;)。

アンフェアだと物議を醸した部分に関しても、この手の作品いっぱい読んで来ちゃって
いるので、とりわけそんな風には感じなかったですし。多分、この作品を下敷きにして、
数々の○○トリックの名作が書かれて来たのでしょうけどね。まっさらの状態で読んだら
きっともっと驚けた筈だと思うと残念なところもあるのですが。古典の本格作品を読むと
大抵こういう感想になっちゃうんですよね~^^;
ただ、もちろん伏線の貼り方なんかはさすがですし、古典の名作と言われるのも十分頷けました。
ポアロは探偵を引退して悠々自適の暮らしをしています。ポアロのちょっとおちゃらけ
キャラがいいですね。ヘイスティングズがアルゼンチンに行っちゃって、探偵と助手が
離れ離れになってるのがちょっと悲しかった。でも、ポアロがちょこちょことアルゼンチンに
いる親友の思い出話をするのが嬉しかったです。結構酷い言い草だったりしてましたけど(笑)。
その親友がいない代わりに、ポアロの助手代わりになったのは、殺されたアクロイド氏の友人で
医者のシェパード。殺人事件の経過は、彼の視点から綴られて行きます。
最初の方でポアロが、事件の関係者たちが集まる場で、『この中にいる全員が何かしらの隠し事
をしている』と述べるシーンがあるのですが、一人一人の『隠し事』がわかっていくにつれて、
ポアロの慧眼に舌を巻きました。特に、最後の最後で明かされる犯人の『隠し事』には驚かされ
ましたね。犯人自体は当たりをつけられたのですが、ある人物の行方については全く予想外でした。

犯人に関しては、好印象を抱いていただけに、その身勝手な殺人の動機に胸がムカムカしたし、
その人物自体にもガッカリしました。
ラストの犯人の独白も後味悪かったですし。ポアロが犯人に対して突きつけた身の振り方も、
個人的にはちょっとどうなのかなって思いました。古典作品って、こういう終わり方が結構
多い気がします。前にも同じような終わり方で、すごく後味悪かった作品があった気がする。
無実の罪を着せられる者を助ける方法なら、こういう方法を取らなくても、普通に警察の前で
自白すればいいと思うんですが・・・。ポアロのキャラが好きなだけに、こういう選択肢を
突きつけて欲しくなかったなぁ、と思いました。

シェパード医師の姉・キャロラインのキャラが結構好きでした。噂好きのおばさんで、
いつも近くにいたらウザそうではありますけど^^;でも、好奇心旺盛な彼女のキャラに
振り回されるシェパード医師や、ポワロの姿がコミカルで楽しかったです。意外に、ポワロに
負けず劣らず慧眼なところもありましたしね(苦笑)。途中で出てくる彼女の弟評が、最後に
効いてくるところは巧いなぁと思いましたね。


○○トリックの先駆けとしては、とてもよく出来た作品だと云えるのではないでしょうか。
本格ミステリの原点回帰という意味では、非常に楽しめた一作でした。久しぶりに再読出来て
良かったです。