ミステリ読書録

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京極夏彦/「定本 百鬼夜行 陽」/文藝春秋刊

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京極夏彦さんの「定本 百鬼夜行 陽」。

悪しきものに取り憑かれてしまった人間たちの現実が崩壊していく…。百鬼夜行長編シリーズの
サイドストーリーでもある妖しき作品集、十三年目の第二弾。京極夏彦・画、書下ろし特別附録
「百鬼図」収録(紹介文抜粋)。


ひっさびさに百鬼夜行シリーズの新作が出ました。前作の『陰』の方も併せて版元を変えての
新装版が発売。もちろん、『陰』は講談社ノベルス時に読了済みですので、今回は新作の『陽』
の方のみ図書館予約。全作、京極堂シリーズ本編のそれぞれの話の前日譚になってます。ただ、
私のように、読んだのがはるか昔で、この人誰?って思う脇役ばかりが主役として登場しても、
十分単独でも楽しめる作品ばかりになっているのでご安心を。もちろん、覚えていたら、より
楽しめるのは間違いありませんが。中の二作『墓の火』『蛇帯』は、ずーっっと前から予告
されているシリーズ最新作『鵺の碑』の前日譚だそうです。『墓の火』で最後に碑が出てくる
から、もしや、と思って読んでいたのですけどね。著者インタビューで、そちら(新作)の詳細も
まもなく明かされる、とおっしゃられているので、ついに刊行か!?と期待は否が応でも高まる
訳なのですけれども。新作は版元を移した文藝春秋からの刊行になるんですかね。なんで
講談社から決裂しちゃったのか、その辺りは、大人の事情があるんでしょうか。なんとなく、
京極堂シリーズ本編だけは講談社ノベルスで出して欲しいって思っちゃいますけどね。もしや、
新作の刊行が何年も遅れているのは、その辺りのゴタゴタのせいだったりもするのかな、とか
余計なことを勘ぐりたくもなってしまいますけども。まぁ、ファンとしては、とにかくどこから
だろうが、早く出してくれ~~~ってのが本音ですけどね(苦笑)。


一作づつ感想を書きたいところですが、量が多いので割愛^^;

やっぱり、冒頭の『青行燈』とラストの『目競』は、シリーズファンには嬉しい作品じゃない
ですかね。特にラストの『目競』の方は、あの方が主役張ってますし。傍若無人なキャラクター
で苦労しらずかと思ってましたが、いやいや。結構苦しんだ人生歩んでるんですね。しかし、
彼がこの職業に就いたのには、こういう経緯があったとはね。シリーズ全体の前日譚となって
いる、とても貴重な一作なんじゃないでしょうか。これが読めただけでも、ファンとしては
感涙ものです。ここから始まったんだなぁ、としみじみ思わされることでしょう。

個人的に、ラストで驚かされたのは『鬼童』『蛇帯』。両方ともある意味似たオチでは
あるんですが、こういう展開になるとは思ってなかったので、あっと言わされた感じでした。
特に『鬼童』の方はね。やるせないというか、母親の気持ちを考えると、もう。やりきれない
としか言い様のないラストで、暗澹たる気持ちになりました。京極さんは、ほんとにこういう
空虚なキャラクターを描くのがお上手ですね。一見普通そうなのに、実はものすごい壊れてて、
常軌を逸した内面心理を持ってるっていう。淡々とした語り口なだけに、より最後でその異常さに
ぞくっとさせられるんですよね。
あと、『青鷺火』のラストの幻想的な川べりのシーンも印象的でした。京極さんの文章の巧さが
際立ってる作品じゃないでしょうか。


今回も600ページ超えで分厚いですが、一作ごとにとても読みやすいので、あっという間に
読めちゃいました。
不気味な妖怪がいっぱい出てきて、妖怪ファンにはたまらないんじゃないでしょうか(笑)。
巻末の京極さん本人による妖怪画も素敵。夜中に見ると、ちと怖いですが^^;;
装幀もかっこいい。表紙の字も、もちろんご本人によるものでしょうね。ほんとに、多彩なひとだ。


やっぱりこのシリーズはいいなぁ。もう、無条件で面白い。
でも、やっぱりスピンオフじゃなくて本編が読みたいよ~~~~(><)。
お願いだから、早く出してください。