ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

愛川晶/「ヘルたん」/中央公論新社刊

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愛川晶さんの「ヘルたん」。

元引きこもりの神原淳は、浅草に住む成瀬老人宅の居候となる。
そこで出会ったヘルパーは、淳が高校時代に恋していた不良先輩・中本葉月。
成瀬は実は伝説の名探偵で、淳はヘルパー講習の傍ら、探偵見習いも務めるはめに…。
推理と介護のフュージョン。新機軸の青春本格ミステリ(紹介文抜粋)。


愛川さんの最新作。『ヘルたん』とはヘルパー探偵の略。ある事情があって元名探偵の老人の
元に居候させてもらうことになった主人公・神原淳が、その家のヘルパーに来ている淳の
高校時代の先輩の影響で、ヘルパーを目指し、見習いとなって各老人の家に仕事に行く中で
成長して行くお仕事小説+ミステリーって感じでしょうか。表紙やタイトルからもっと軽めで
コミカルな内容をイメージしていたのですが、老人介護問題が根底にあるので、思ったよりも
ずっとシビアな内容で、胸にずしりと来ました。幸いなことに、今現在は両親ともに介護が
必要な状態ではなく元気でいてくれますが、近い将来、確実にそういう現実と向きあわなければ
いけない時が来る訳で、こういうテーマの作品はいろいろと考えさせられるし、勉強になる部分
が多いです。認知症患者との付き合い方とか、身体が不自由な老人との接し方とか。この手の
作品を読む度に毎回のように、介護士さんて本当に大変な仕事だなぁ、と思わされますね。
それだけに、重労働の割に待遇が良くないっていうのも、納得行きかねるものがありますが。
これからどんどん介護士さんの需要は高まって行くのに、この現状でなり手がいなくなるのも
むべなるかな、という気がしますけれどね。

でも、そうした待遇にもめげずに、今回出て来る葉月や淳がポリシーを持ってしっかり介護士
の仕事をしている姿が逞しかったです。葉月に関しては、その頑張りにも理由があった訳です
けれど。意外だったのは、元ひきこもりの淳が、意外にちゃんと仕事をこなすところ。引きこもり
の割に、お世話になっている成瀬老人の為にあれこれと仕事を買って出たりする生真面目な
所もあるし根が素直なので、好感が持てました。だいたいが引きこもりになっちゃう人間って、
他人とかかわり合いになりたくないとか、怠惰な性格な場合が多いので、ちょっと珍しいタイプ
でしたね。

でも、このタイトルにはちょっと異議あり、かも。だって、実質上謎解きするのはヘルパー
である淳ではなく、元探偵の成瀬さんの方なんだもの。確かに、最終的に謎の答えを出すのは
淳だとしても、その推理の元になるのは成瀬さんの言葉だし。といっても、成瀬さんはある
事情から、その言葉が淳の推理の元になるなんて思わずに発言している訳なのだけど。この
成瀬さんのキャラ設定はなかなかに目の付け所が面白かったですね。○○○探偵とはね。こういう
切り口があったのか、とちょっと目からウロコの思いがしました。しかし、早いとこ、彼の
現状に誰かが気付いてあげないと、悲惨な状態になりかねない気がします・・・。

淳の両親の身の上に関しては驚かされました。うーん、ここまで重い展開になるとは・・・。
振り込まれたお金に、そういう事情があるとはね。でも、なんでその人物がそこまで?っていう
疑問を感じないではなかったですけど(本人も感じていたようですが)。

成瀬さんの渋いキャラが好きだったので、彼の今後の身の上はとても心配です。しばらくは
淳がついててあげるんでしょうけれど・・・。
彼が生涯に一度だけ解決出来なかった事件って何なんでしょうか。気になります。淳と葉月
が今後再会するかどうかも気になるし、続編を希望したいですね。