ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

柳広司/「パラダイス・ロスト」/角川書店刊

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柳広司さんの「パラダイス・ロスト」。

異能のスパイたちを率いる“魔王”――結城中佐。その知られざる過去が、ついに暴かれる!?
世界各国、シリーズ最大のスケールで繰り広げられる白熱の頭脳戦。究極のスパイ・ミステリ!
(紹介文抜粋)


結城中佐率いるスパイ集団『D機関』が活躍するスパイミステリーの第三弾です。いやぁ、
今回もD機関のメンバーたち、みんなめちゃくちゃかっこよかったです。前作は政治色が
強くなったせいなのか、若干一作目より読みにくい印象を受けたのですが、今回はあまり
そういう読みにくさは感じず、さくさく読めました。一作ごとに違った角度からD機関のメンバー
たちが活躍するので、マンネリ化の印象も全くなかったですね。それぞれに主人公は違い
ますが、どの作品でも共通しているのは、名前だけで姿が出て来なくても、他を圧倒する程の
結城中佐の存在感の強さ。D機関のスパイたちがみんな、スパイとしてこの上もなく優秀な
人材ばかりで、彼らの有能さを目の当たりにする度に、その優秀なスパイたちを教育したのが、
上官である結城中佐だという事実が浮かび上がってくるからでしょう。ほとんど名前しか
出て来ないのに、この作品の裏の主役は間違いなく結城中佐なんですよね。スパイらしく、
表には出て来ないけど、裏で国を揺るがす程の活躍をしている、というのが何ともかっこいい。
結城中佐の本当の素顔って、どんななんでしょうね。恐ろしく冷静で頭がキレるのに、冷血
にも感じない。『殺すな、死ぬな』の精神のせいでしょうね。スパイだからって、無駄な
流血はしないし、お国の為に自らの命を投げ出すような自虐行為もしない。スパイだけど、
妙に人間臭いところを持っていたりもする。だから、D機関のメンバーたちは例外なく、スパイ
なのに、どの人物にも好感持ててしまうのだろうなぁ。なんとも、巧い設定を考え出した
ものだと感心してしまいますね。

今回、一番面白かったのは、結城中佐の過去を追った『追跡』かな。あの謎のベールに包まれた
結城中佐の過去がついに明かされる!?と思って、ハラハラドキドキしながら読みました。
・・・が、やっぱり、結城中佐は一枚二枚どころか、十枚位も上でしたねぇ。プライスさん、
お気の毒。幼少期の晃のキャラ造形には、妙に納得できちゃうものがあったんですけどね~。
一体、どこまで先読みの力があるのか、結城中佐^^;;ほんとに、『魔王』ですね・・・
恐るべし・・・。

表題作の元になった失楽園も面白かったです。ラッフルズ・ホテル、名前だけは私でも
知ってます。泊まってみたーい。スパイ本人が動かずとも、巧妙な誘導で他人を動かし、自分
たちの思う通りの展開に持って行けるD機関のスパイの手腕に慄然とさせられました。うーん、
すごすぎる。真相はともかく、主人公が恋人を助けることが出来たのだから、良かったのでしょう。
D機関も粋なことをするものです。まぁ、真相は藪の中、ですけどね・・・。

ラストの前後編『暗号名ケルベロスは、ラストの展開が意外でした。内海が、スパイである
ことを放棄して、そういう選択をするとは。今後の彼は、『責任を取る為に』ハワイで生活して
行くつもりなのかな。彼らと共に。きっと、そっちの生活の方が穏やかで楽しい日々が過ごせる
でしょうけどね。結城中佐は絶対引き止めたりしないでしょうしね。内海のハワイでの生活が
どうなるのか、ちょっと気になるな。



今回の表紙もかっこいいですね。やっぱり、表紙は結城中佐?
D機関のスパイたちと結城中佐の暗躍をまだまだ楽しみたいです。末永く続いて欲しいシリーズ
ですね。