ミステリ読書録

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辻村深月/「サクラ咲く」/光文社刊

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辻村深月さんの「サクラ咲く」。

若美谷中学1年5組の塚原マチは、自分の意見を主張できない、頼み事を断れない、そんな性格を
直したいと思っている。ある日、図書室で本をめくっていると、一枚の紙が滑り落ちた。そこには、
丁寧な文字で『サクラチル』と書かれていた。貸出票には1年5組と書いて、消された跡がある。
書いたのは、クラスメイト?その後も何度か同じようなメッセージを見つけたマチは、勇気を振り
絞って、返事を書いた。困っているはずの誰かのために―(「サクラ咲く」他2編収録)。中高生
が抱える胸の痛み、素直な想いを、みずみずしく描いた傑作。中学生から(紹介文抜粋)。


辻村さんのYAもの。ラノベっぽい表紙で、どうなのかなーと思いましたが、YA向けながらに、
しっかり辻村さんらしさも含まれていて、爽やかに読み終えられる青春小説でした。中高生を
主人公に据えた三作が収められています。それぞれ単独に読んでもそれなりに楽しめましたが、
それぞれの作品が微妙にリンクしていて、三作目を読むと、三作が綺麗に繋がっていることが
わかって、また違った感動が得られました。こういう仕掛けはほんと巧いですよね、辻村さん。
一作目の『約束』が、三作目にして果たされたところが良かったな。一平君の両親が誰かわかった
時は嬉しかったなー。父親が製薬会社の研究者ってところで気付くべきだったのに^^;海野
先生のことも、最初わからなかったし^^;下の名前が出てくればさすがに気付いた筈なのにー。
でも、海野って誰かの苗字だったよなーと思ったんですよね。

三作の繋がりがわかる三作目も好きだけど、単独では表題作が一番好きかな。マチとやり取り
する手紙の主には早い段階で当たりがつけられちゃいましたけど。図書室の本を使っての
往復書簡なんて、なんか本好きとしてはワクワクしちゃいますね。誰にも気付いてもらえない
けど、誰かに気付いて欲しいって気持ち、わかるなぁ。私も、どちらかというと教室の中では
地味で、休憩の時は友達と騒ぐよりも机で本読んでるタイプに近かったからな。学校の図書室も
大好きだったし。その頃から図書室の先生は憧れ。マチはぴったりの職業に就けたんですねぇ。
羨ましい・・・。

実は、三作目読んだ時、主人公が惹かれた『図書室の君』って、最初、二作目に出て来た紙音
なのかなって思ったんですよ。紙音が人知れず図書室に行ってた時の話なのかな、と。でも、
なるほど、こういう時系列だったのかー、と思いました。亜麻里と一平が今後どうなるのかも
気になるな。それにしても、亜麻里にインタビューした時の三根には腹が立った。アンタ、何様!?
って言いたくなりました。でも、そのインタビューの様子を聴いた映画研究会の三人が、みんな
同じように腹を立てられる子たちなのが嬉しかったな。三根みたいな人間が将来ジャーナリストを
目指しても、せいぜい三流の芸能リポーターになるのが関の山でしょうね。人の心を平気で踏みにじる
ような人間は、ろくな大人にならないに違いない。でも、亜麻里は、きっと一平たちの映画に出演
したことで、いろんなことが吹っ切れて、また明るい場所に出て行くことが出来る筈です。いつか、
一平が監督する映画に、亜麻里が主演する、なんて未来が来るといいな。


YA向けに書かれているので、いつもよりも更に読みやすかったです(笑)。でも、内容は
しっかり辻村流。三編のリンクの仕方など、辻村さんらしい小技が効いていて良かったです。
読み終えて爽やかな気持ちになれる、素敵な青春小説でした。

そういえば、辻村さん、また新刊出したんですよねー。なかなか精力的に書かれていて素晴らしい。
今度の新刊も面白そう(短篇集らしい)。楽しみ^^