ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

辻村深月/「鍵のない夢を見る」/文藝春秋刊

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辻村深月さんの「鍵のない夢を見る」。

誰もが顔見知りの小さな町で盗みを繰り返す友達のお母さん、結婚をせっつく田舎体質にうんざり
している女の周囲で続くボヤ、出会い系サイトで知り合ったDV男との逃避行――日常に倦んだ心
にふと魔が差した瞬間に生まれる「犯罪」。現代の地方の閉塞感を背景に、ささやかな欲望が引き
寄せる奈落を鮮やかにとらえる短編集。ひとすじの光を求めてもがく様を、時に突き放し、時に
そっと寄り添い描き出す著者の筆が光る傑作(紹介文抜粋)。


辻村さんの最新作。借りてほぼ一日で読んでしまいました。辻村作品は読みやすくていいなぁ。
最近ほんとに忙しくて本読む時間がないので、短時間でさくっと読める作品の方が楽なんです
よね^^;実は皆川さんの新作を読み始めようとしていたのだけど、文章がなかなか頭に入って
来なくて、時間かかりそうで敢え無く断念・・・装幀も内容も面白そうだったのになぁ。もう
ちょっと精神的に余裕のある時に再チャレンジしようかと思ってます^^;

前置きはさておき。本書は辻村さんには珍しく、ノンシリーズの短篇集。5作の短篇が収め
られています。ただ、ノンシリーズとは云え、ざっくりとしたテーマ性はあるので、それなりに
統一感のある短篇集にはなってます。共通点は、女性が主人公ってところと、後味が悪い
ってところくらいですけど^^;辻村さんにしては、ほんとにどれも苦い結末ばかりで、
読み終えた後はなんだか重ーい気持ちになりました^^;さくさくっと読めるのは良かった
のですけれどね。重いっていうか、痛いっていうか・・・まぁ、辻村さんの描く女性像って、
大抵が痛いので、読んだ後微妙な気持ちに囚われるんですけどもね。むず痒いっていうのかしら。
女性なら、こういう気持ちわかるなぁっていうか。自分が嫌だと思うところを突いて来られる
となんかね、わかるだけに、なんか余計にイラっとするんですよね。上手く説明できませんが。
そういう微妙な女性心理、ほんとにお上手なんですよね、辻村さんって。この間読んだエッセイ
とか読むと、ほんとに普通の明るい女性って感じなんですけどもね。

それぞれに読ませる作品ではあったのだけど、なんだかうやむやな感じのラストが多くて、
きちんとオチがあってすっきり、って感じの作品があまりなくて、ちょっともやもやするような
読後感でした。そういう意味では、一番ミステリー要素が強い『芹葉大学の夢と殺人』
一番面白かったかな。実はこれとラストの『君本家の誘拐』はアンソロジーだか雑誌だかで
既読だったんで、オチ知ってる上での再読だったんですけど^^;;『芹葉家~』は、主人公
の元恋人の男のあまりにもウザくてどうしようもない性格にイライラムカムカしっぱなし^^;
大学の体育でしかサッカーやってないのに、将来の夢が医学部を入った上でのサッカー選手って^^;
本気で言ってるところが何ともかんとも・・・実際こんなアホ男がいるんですかね。結局、
犯人の教授殺害の動機はわからないままだったけど、多分口論の末カッとなって・・・みたいな
衝動的なものだったんだろうな。その人物の性格なら、その光景が目に浮かぶようだもの。
でも、主人公のラストの行動は意外でした。こういう復讐の仕方もあるんだなぁ・・・女の
執念の怖さを見せつけられた思いでした。

一番主人公がイタかったのは『石蕗南地区の放火』かな。36歳、男性に縁がないけど、そこそこ
外見がいいものだから、プライドだけは高くて、出会う男性を選り好み。でも、結局言い寄って
くる男はロクでもない人間。でも、そういう男の誘いにさえすがってしまい、結果痛い目に遭う、
みたいな。いやもう、ほんと、イタかった・・・。でも、すごい気持ちはわかるっていうか。
女なら誰でも、こういうプライドの高さって持ってるものじゃないのかなぁ。後輩の子に、
なんとか自分を上に見せたいって気持ちとか。周りから見ると、張り合ってどうするって部分で、
ちょっと見栄を貼りたくなる気持ちとか。読んでてこっちが恥ずかしくなるようなむず痒さを
感じました。放火の理由を知った時の気持ちもね。せめて自分が思った通りだったらまだ溜飲が
下がったのかもしれないけども。皮肉な結末でした。

ラストの『君本家~』は、きっと辻村さんご自身の出産と育児経験が生かされているのでしょうね。
多分、出産を経験された方には、本当にリアルな作品に感じるんじゃないかな。主人公の心理
描写が真に迫っていて、ドキドキしました。多分前に読んだ時の感想にも書いたと思うんですが、
もっと最悪の結末を想像していたので、こういう結末に行くとはちょっと意外でした。母として、
強く生きて行く意志を持つきっかけになったとしたら、主人公にとっては良い経験になったの
ではないでしょうか。とことん突き落とされる結末の作品が最後じゃなくてちょっとほっと
しました。


つい最近読んだ『サクラ咲く』の爽やかさとは対極にあるような作品集でした。まぁ、これは
これで辻村さんらしいのかな。私はもうちょっと、ラストに救いがある辻村作品の方が
好きだけど。でも、女性の心理描写の巧さはさすがだな、と思わされました。

ただ、一点、『鍵のない夢を見る』という作品タイトルがどこからつけられたものなのかが
わからなかったのは残念だったな。どういう意味があったつけたんだろう・・・。鍵なんて
キーワードがどこにも出て来なかったので、そこだけが消化不良といえば、消化不良だった
かな。タイトル的にはかっこいいですけどね。