ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

森晶麿/「黒猫の接吻あるいは最終講義」/早川書房刊

イメージ 1

森晶麿さんの「黒猫の接吻あるいは最終講義」。

黒猫と付き人がバレエ『ジゼル』を鑑賞中、ダンサーが倒れるハプニングが発生した。
五年前にも同じ舞台、同じ演目で、バレリーナが死亡する事件が起きていた。
ガラスアーティストの塔馬から聞いた黒猫の過去と、二つに事件の関連を気にする付き人。
しかし何やら隠し事をしているらしい黒猫は、関わらないよう忠告するだけだった。
仕方なく付き人は一人で事件に挑むが・・・・・・ジゼル、ガラスアート、ポオを絡め、
二度の事件を結ぶ図式が見えたとき、黒猫の最終講義が始まる――(紹介文抜粋)。


第一回アガサ・クリスティー賞受賞作の続編。一作目がとても気に入った作品だったので、
続編とても楽しみにしていました。
前作は一話完結の連作短篇形式でしたが、今回は章立て形式の長編。黒猫が過去に付き合って
いたという二人のバレリーナを巡って、過去と現在が交錯しながら事件が起こります。
バレエを鑑賞に来た黒猫と付き人の『私』の前に、黒猫の旧友で著名なガラスアーティストの
塔馬陽孔が現れます。塔馬は、黒猫がかつて付き合っていたバレリーナの現在の恋人で、
もうすぐ二人は結婚するらしい。けれども、付き人の私に接近して来た塔馬は、黒猫の
過去が知りたければ自分のアトリエにおいでと誘う。黒猫の過去が気になる『私』は、
まんまと誘いに乗ってしまい、激しく後悔する事態に陥ってしまう。塔馬の真の目的とは
何なのか――というのが大筋(わかりにくくて、すみません^^;)。

黒猫の過去の女性関係にはかなり面食らいました。姉と付き合って、直後に妹と、なんて、
なんだか黒猫のキャラに合わないなぁ、と少々失望しながら読み始めました。しかも、
姉の方は5年前に亡くなっているから人間性はいまいちわからないけれど、妹の方は
とても同じ女性として好感が持てるタイプではないし。付き人である『私』ともあまりにも
タイプが違うので、一体どうなっているのだ、と少々腹立たしい思いで読み続けました。

・・・まぁ、黒猫の過去が塔馬の言う通りのままだとは思わなかったけれども、蓋を開けて
みたら、黒猫はやっぱり私の印象通りの黒猫だったことがわかって、最後はほっとしました。
『私』に対しての気持ちもちょっぴりわかりましたしね。とっても大事なことを直前まで
彼女に黙っていたのは酷いと思いましたけれど、きっと本人ももっと早く言おうと思いながら、
言えずにいたんでしょうね(苦笑)。

舞台の上でダンサーが倒れた理由は、ちょっと無理があるかなぁって感じ。そこまで計算
しても、そんなに上手く行くものなのかしら。

一番驚かされたのはある人物の死でしょうか。まさかその人物が殺人の標的になるとは思って
いなかったので・・・。動機はいまいち理解出来なかったですけど。
バレエやガラスアートといった、題材はとても美的でこのシリーズらしく綺麗なものなのだけど、
殺人の動機や関係する人物像はあまり美しいとは言いがたく、なんだか醜怪な人間関係や
人間心理を見せられたような気分になりました。本人たちは崇高な気持ちなのかもしれない
ですけどね・・・。まぁ、今回も美学の何たるかは、いまいちよくわからないままでした
けども^^;

ただ、最後の黒猫と付き人の関係の部分だけはニヤリ、でしたね。前作でもその部分が
一番気になっていたので、今回は少し二人の仲が前進したかな?と思えたところが嬉しかった。
タイトルやらこのラストやらで、なんだかこれで終わりっぽい雰囲気も漂ってますが、
まだまだ続きが気になります。特に主役二人の関係がね。これからってところで、なんで
この展開!?と思わなくもないですが。

でも、ネット検索していたら、森さんご自身のブログがHITしまして、日記をちらりと拝見
していたら、雑誌で黒猫の若かりし頃の短篇を書かれたりもしているそう。学生時代の黒猫と
『私』に出会えるのだとか。よ、読みたいぞー!
という訳で、この先もシリーズは続くと期待して良さそうです。うふふ。

今回も表紙が素敵ですね。『付き人ちゃんのドレス姿に見惚れる黒猫』の図を想像すると
ニヤニヤしちゃいます(笑)。一度でいいから、そういう姿を見たかったんだね、彼は。
素直に見たいと言えない辺り、意外に意地っ張りだったりするのかもね(苦笑)。