ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

伊坂幸太郎/「夜の国のクーパー」/東京創元社刊

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この国は戦争に負けたのだそうだ。占領軍の先発隊がやってきて、町の人間はそわそわ、おどおど
している。はるか昔にも鉄国に負けたらしいけれど、戦争に負けるのがどういうことなのか、町の
人間は経験がないからわからない。人間より寿命が短いのだから、猫の僕だって当然わからない――。
これは猫と戦争と、そして何より、世界の理のおはなし。どこか不思議になつかしいような/誰も
一度も読んだことのない、破格の小説をお届けします。ジャンル分け不要不可、渾身の傑作。
伊坂幸太郎が放つ、10作目の書き下ろし長編(紹介文抜粋)。


伊坂さんの最新作。旅行先に持って行ってちびちび読みました。デビュー作の『オーデュボンの
祈り』を彷彿とさせるような、思いっきりのファンタジー作品になってます。かなり荒唐無稽な
設定なので、設定自体に慣れるまでに結構時間がかかったかも。細切れに読んでいたせいか、
なかなか乗れずにちょっと苦戦しました。読み易くない訳じゃないんですけど・・・。こういう
作品は映像とかで観た方が入りやすいのかもしれないなーと思いました。

妻に浮気をされた男が舟で釣りに出かけた先で遭難し、流れ着いて目を覚ましたら目の前に
言葉をしゃべる猫がいて、猫の住む国の話をされるのだけれど、そのお話がまたなんとも摩訶
不思議で・・・という感じで、人間サイド・猫サイド交互に物語が進んで行く形式。猫が住む
国でのお話は、なんとも不条理で、理不尽で、読んでてムカムカしました。突然敵が国にやって
来て、兵士たちが街を占領して住民たちを迫害して行くという。また、国のトップである冠人が
突然殺されて、次いで国のトップに躍り出た冠人の息子の酸人が最低の人物で、彼の言動にも
ムカムカイライラしっぱなし。敵の兵士たちとの交渉で、住民たちが一生懸命酸人に敵の兵士の
裏をかくよう説得して、その時は頷くのに、いざその場面になったらことごとくに住民たちを
裏切って相手側に寝返るし。でも、住民たちも、なんで毎度毎度酸人の言葉を信じちゃうのかなぁ、
と、そこにもイラっとしました。これだけ裏切られてたら、いい加減彼の言葉に裏があることに
気付いてもいいのになぁ、と思ってしまいました。まぁ、基本、住民たちがみんな素直で優しい
性格だからなのかもしれませんが・・・。

途中、かなり殺伐とした展開が続くので、この話の行き着く先って何なんだろう、と全く予想が
つかずに読んでたんですが。終盤の畳み掛けるような謎解き部分はさすが、という感じでした。
いろいろと伏線になってる部分にはこういう意味があったのかー、と驚かされました。謎の怪物
クーパーに関しては、若干拍子抜けしたところもあったんですけど。まぁ、なんとなくそんな
オチなんじゃないかなー、という予感はあったんですけどね。クーパーを倒した時の体液浴びた
人間が透明になっちゃう、というあまりにも突拍子もない設定に納得のいく説明がつけられるとも
思えなかったんで^^;でも、こういう説明ならなるほど、と思えました。

何といっても、殺伐とした話かと思っていたら実は・・・という展開が伊坂さんらしくて良かった
ですね。なんか、イヤーな話だなぁ、と思ってずっとモヤモヤしながら読み進めていただけに、
そのモヤモヤが最後にさーっと晴れて行くところは爽快でした。基本的にはとても優しいお話、
なんですよね。からくりがわかると、イヤだ、腹が立つと思った部分が全く違う意味を持っている
ことに気付いたりね。

ただ、途中の鼠とのやり取りとか、結局何だったのかなーって感じもするし、人間サイドの『私』
が突然猫が住む国に行き着いた理由とか、猫と鼠が突然しゃべれるようになったのは何故かとか、
わからないままの部分も多いままだったりもしましたけど。ま、大抵の伊坂作品にはそういう部分が
残されるのが定石なので、大して不満にも思わないのですけれども。『ファンタジーの世界だから』
ってことで納得させられちゃう部分もありますしね。

伊坂さんらしいファンタジーになってるんじゃないでしょうかね。ただ、どうも今の私には
あまりにも荒唐無稽なファンタジー世界に浸りきれないところがあって、いつもの伊坂作品
ほどハマらなかったんですよね。旅先なんかで読んだのがいけなかったのかも^^;一作読むのに
結局一週間近くかかってしまっていたし。
世間的な評判はかなり良いようなので、単に私の問題なのだと思います。すみません^^;