ミステリ読書録

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深水黎一郎/「言霊たちの夜」/講談社刊

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深水黎一郎さんの「言霊たちの夜」。

 

大手ゼネコンに勤務する田中は、学生時代にボクシングをしていたせいか、耳の
聞こえが悪い。そのため誤解から家を出た恋人の友人宅に電話をしても、「嫁は
寄生虫」「ひがんで実家に帰っている」などと聞き違えてしまう。そして同じ
時間、同じ場所に、やはり勘違いの甚だしい自称・カリスマ日本語教師がいた……。
彼らの言動が、取り返しのつかない大惨事へ――(紹介文抜粋)。


『言葉』を取り上げた深水さんの最新中編集。言葉にまつわる勘違いをテーマに
四作が収められていますが、どの作品もブラックユーモア満載で多いに楽しませて
もらいました。
深水さんの作品はいつも言葉自体に仕掛けがあったりして、ちょっと切り口が
変わってるところが面白いんですよね。今回も、日本語の盲点をついた、かなり
斬新な趣向の意欲作でした。
耳の聞こえが悪いせいで常に言葉を勘違いして受け取る男の話や、真面目な評論が
ワープロの変換ミスでどエロい文章に変わってしまうお話とか、言葉の使い方って、
一歩間違えるとこんな風になっちゃうんだなぁ、と終始苦笑しながら読んでました。
外国人にとっても、日本語ってほんと摩訶不思議な言語に映るんだろうなーと思い
ました。日本語はとても美しい言語だと思うけど、それだけに習得するのは至難の
業なんでしょうね。


以下、各作品の感想。

 

『漢は黙って勘違い』
同じ言葉でも、受け取り方次第でこんな勘違いを生んでしまうんですねぇ。確かに
『関を入れる』なんて言葉を妙齢の女性が聞いたら、ああいう風に受け取って
しまうだろうなぁ・・・。
主人公がことごとく他人の言葉を曲解して受け取るのが可笑しかったです。
知ったかぶって話したことが全くの勘違いだったりすると、ほんと顔から火が
出そうなくらい恥ずかしいですよね^^;全く身に覚えがない訳じゃないので、
主人公の勘違いがちょっと耳に痛かったです^^;

 

『ビバ日本語!』
日本語教師と教え子の女の子の咬み合わないやり取りが笑えました。教え方
適当なのに、自分の日本語教師としての能力に自信まんまんな主人公の言動が
痛かったです^^;こんな教師に教えられた外国人の生徒の行く末が心配です
・・・。

 

『鬼八先生のワープロ
これでもかってくらいの下ネタオンパレードで、男性が読んだらすごく楽しめるん
だろうなーと思いながら読んでました。よくもまぁ、ここまですごい変換が
出来るものだ。深水さんも、書いてる時はすごく楽しかったんだろうなーと思い
ました(苦笑)。下ネタ嫌いな人には絶対お薦めできませんが、まともな筈の
文章が、ワープロの変換ミスによって全く違うお下劣極まりない文章に変貌しちゃう
ところが面白くて、私は結構はまって読んじゃいました(苦笑)。

 

『情緒過多涙腺刺激性言語免疫不全症候群』
絶対何度聞いても覚えられない特殊なアレルギー体質を持った男のお話。他人が
ベタなクサいセリフを話すと、アレルギー症状が出て、症状が激しいと暴れ出して
しまうという。このアレルギーのせいで、終盤トンデモない展開になって行くので
目が点状態に^^;ラストは何とも皮肉な結末で、主人公がちょっと可哀想になり
ました。


一作一作は単独のお話なのですが、微妙に四作ともリンクがあります。一時期に
こんなに事件が重なるものか?とも思いましたが^^;
言葉の勘違いは誰にでもあることでしょうけど、それを突き詰めるところまで
突き詰めたお話を書いてみたって感じでしょうか。
日本語の難しさを痛感する作品集でした。面白かったです。