ミステリ読書録

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平山夢明/「或るろくでなしの死」/角川書店刊

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平山夢明さんの「或るろくでなしの死」。

震えながら、戦きながら、そうとは知らずに……七人の人間たちが迎えた、決定的な"死の瞬間"。
異能・平山夢明が魅せる狂気の淵に、決して飲み込まれるな! 驚愕の傑作短編集(紹介文抜粋)。


久々平山さん。出版されて割とすぐに予約したんですが、蔵書1冊のせいでかかなり待たされ
ました^^;いろんな人物の『死』を扱った短篇集。
いやー、久しぶりに平山ワールド全開でしたねぇ。相変わらず読む人を選ぶ小説書いてるなー
って感じでしたが、個人的にはかなり堪能いたしました。いろんな形の死が平山さんらしい
描写で描かれていて、途中かなりエグいのとかえげつないのとか非人道的なのとかいっぱい
出て来てなかなかに凄絶でした・・・。でも、スプラッターな中にも人間の悲哀とか愛とかが
微妙に挟まれていたりするから、単なる残虐小説ってわけでもないのよね。まぁ、この手の
作品が苦手な人にとっては、ただの残虐小説以外の何物でもないかもしれないですけど^^;

一番のお気に入りはやっぱり表題作かな。優秀な殺し屋の男と母親から虐待されている少女の
物語。少女と彼女の母親をターゲットにしなければならなくなった殺し屋の微妙な感情が切なく
描かれていて読ませます。最初、殺し屋から買ってもらった小動物を次々と少女が無情に殺す
ところには辟易しましたが、彼女がそんなことをした理由を知って、彼女が哀れになりました。
殺し屋との間にほんの少しの友情が生まれたような気がしていたので、結末の皮肉さが悲し
かったです。
冒頭の『或るはぐれ者の死』は、人畜無害の路上生活者が踏み潰された子供を供養しようとする
話。主人公の必死の願いを周りの人間が真剣に取り合ってあげないところが歯がゆかった。でも、
自分が周りの人の立場でも、相手が路上生活者だとわかった時点で同じような反応しちゃうかも
しれないです。
二話目の『或る嫌われ者の死』は、日本人が嫌われている世の中で、日本人の男が電車に挟まれ
瀕死の状態に陥ってしまう話。周りの人間の『見殺しにしろ』という目線の中、男を助ける為に
救助に向かうレスキュー隊員のジレンマが描かれます。日本人が国中に嫌われているという状況
を読むのは日本人として忸怩たるものがありました。中国とかあの国とかに行くとこんな感じに
扱われるのかな・・・。
三話目の『或るごくつぶしの死』は、自分の性欲の為だけに女を利用し、『物』扱いする主人公に
ムカムカ。でも、相手の女は女で、育てることも出来ないのに妊娠して子供を産んで放置する
ようなどうしようもない人間だから、どっちもどっちって感じでしたが。
続く『或る愛情の死』は、交通事故で二人兄弟の障害を持った子供の方を亡くした家族のその後
の家庭崩壊を描いた作品。死んだ弟の死には皮肉な真相が隠されていて、とにかくラストの奥
さんの壊れっぷりがすごいです。無言の抗議もここまで行くとほんとね・・・狂気にとりつかれた
人間の怖さを存分に思い知らされる作品。
『或る英雄の死』は、一番読んでてえげつないというか、下品さ200%って感じで、結構
キツかったです(><)。特に、後半の暴力シーンが~・・・老婆に対してろくでもない考えを
起こした主人公二人組の浅はかさが裏目に出た形なので、完全に自業自得ではあるんですけどね。
最後の『或るからっぽの死』は、人間の顔が見えなくなってしまう男と、死にたがりの女との
死を巡る物語。もっと早く二人が出会えていたらもっと違った未来があったのかなぁと思うと
ちょっと悲しい。ラスト、シニコの最期の写真を眺める主人公の優しさが切なかったです。


平山さんの作品って、殺伐とした世界ですが、どこか人間くさくて愛があるのがいいんですよね。
嫌悪感溢れる描写なのに、なぜか読まされてしまう。不思議な魅力のある作家さんです。
ただ、スプラッター系や残虐な描写が苦手な方はご注意を。