ミステリ読書録

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大崎梢/「クローバー・レイン」/ポプラ社刊

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大崎梢さんの「クローバー・レイン」。


過去の人とされていた作家の素晴らしい原稿を手にした若手文芸編集者が、いくつものハードル
を越え、本を届けるため奔走する。胸が熱くなる一作(紹介文抜粋)。


大崎さんの最新作(ですかね、まだ?)。タイトルから内容が全然想像出来ずに借りたのですが、
大崎さんらしい出版業界ものでした。やっぱり、大崎さんは本関係の作品が一番しっくり来るし、
面白いですね。今回も、業界の内部事情が良くわかる内容で、なかなかに本好き心をくすぐられる
良作でした。
大手出版社『千石社』に勤める若手の文芸編集者が主人公。 千石社といえば、以前に読んだ
『プリティが多すぎる』の主人公が勤めていた出版社(だと思う、確か)。しかも、今回は、
彼が行きたいと熱望していた文芸編集部が舞台です。
若手の文芸編集者・工藤はひょんなことから、忘れ去られ過去の作家と見なされている家永の
自宅で、彼の最新原稿を手にします。その内容の素晴らしさに感動した工藤は、原稿の引き取り先
が決まっていないと聞き、家永にその原稿を自社で引き取らせて欲しいと願い出ます。家永は
承知してくれるものの、社での家永の作家としての扱いの低さから、工藤は原稿の出来がどんなに
すばらしくても、それがすぐに本にしてもらえる訳ではないという、編集者としての厳しい現実に
気付かされます。そこから、家永の原稿を本にするための工藤の奮闘が始まる・・・というのが
大筋です。世間から忘れ去られた作家の原稿の扱いとか、そういう作家が原稿を書いても大手の
出版社では取り扱ってもらえないことなど、出版業界の厳しい現状がとてもリアルに描かれていて、
ぐいぐい読まされました。

工藤の、家永の素晴らしい原稿を本にして多くの人に読んでもらいたい、という熱意がダイレクト
に伝わって来て、こちらまで胸が熱くなりました。まぁ、普通、若手の編集者が工藤のような
ことをしたら、上から圧力がかかって干されて終わり、みたいなことになっちゃうのかもしれない
ですけどね。そういう意味では、若干上手く行きすぎのような印象を受ける人もいるかもしれない
ですけども。でも、それだけ工藤が頑張ったからであって、私は工藤の熱意や努力が報われて
良かったと清々しい気持ちで読み終えられました。

自分が良かったと思えた作品を他の人が読んで感動したと言ってもらえる喜びは、私もブログを
書いていてちょくちょく感じているから、工藤の気持ちは少し理解出来ます。もちろん、こんな
辺境ブログと大手出版社から本を出すことを比べるのは、規模が違いすぎて厚かましいことでは
あるんですけども(す、すみません^^;;)。

恋愛部分の方は、これから盛り上がりそう!って思ってる所で、ある事実が判明してかなり
がっかりしてたのですが、最後でまたちょっぴり盛り上がりがあって嬉しかったです。まだ
どうなるかわからないですけど、このまま上手く行ってくれたらいいな~と思いますね。
本好きって、やっぱり同じ本好きさんと出会うとほんと嬉しいんですよね。工藤が、家永の
娘と書店でばったり出会って、本の話で盛り上がるくだりがあるんですが、出て来る作家が
みんな好きな作家ばかりだったので、うんうん、わかる、わかるよー!って思いながら
読んでました。私もそこに加わりたかったくらい(笑)。
二人はすごくお似合いなんじゃないかなー。この後の二人の展開が気になるなぁ。
『プリティが多すぎる』の主人公は、仕事が嫌で嫌で仕方ないって感じでしたけど、今回の
主人公は、仕事に情熱を燃やす姿が描かれているので、読んでいて気持ち良かったです。

原稿の持つ力を信じて、最後まで信念を貫き通す姿勢には頭が下がりました。世の中の数ある
名作は、こういう情熱を持った編集者たちが手がけて来たのかもしれないですね。

大崎さんの出版業界ものはやっぱりハズレなしですね。
工藤がそこまで熱意をかけたシロツメクサの頃』が、とても読んでみたくなりました。
家永嘉人名義の企画で出版化してくれないかな(笑)。

ひとつの原稿が一冊の本にまとまるまでの、編集者の苦労と情熱。本を作ることの大変さが
とても良くわかる作品だと思います。そして、本になって多くの人に読まれて評価されることの
喜びも。
すべての本好きさんにオススメしたい本ですね。面白かったです。