ミステリ読書録

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千早茜/「森の家」/講談社刊

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千早茜さんの「森の家」。

名も知らぬ木々で覆われた、森のように静かな家で暮らす、佐藤さんとその息子・大学生のまりも君。
そこへ転がり込んできた、佐藤さんの恋人の美里。理解されない孤独をそれぞれに抱える3人は、
どこか寄り添うように、「森の家」での奇妙な共同生活を続けるのだが――。
小説すばる新人賞泉鏡花文学賞ダブル受賞の異才が描く、ちょっと普通じゃない、「家族」
のカタチ(紹介文抜粋)。


デビュー作以来追いかけている千早さんの最新作。今回はまたちょっと今までと雰囲気の違った
作品でした。大学生の息子と二人暮らしの恋人・佐藤の元で奇妙な同居生活をスタートさせた
美里。三人三様、微妙な距離感を保ちながら日常は過ぎて行くのですが、そんな中、ある日
突然、何の前触れもなく佐藤が失踪してしまいます。残された美里と彼の息子のまりも君は、
戸惑いながらも奇妙な同居生活を続けることに。そのうちに、自分たちにとって佐藤はどういう
存在だったのかを省みるようになっていく・・・というのがあらすじ。
三人三様、一人づつの視点から語られます。一話目が美里、二話目がまりも君、三話目が佐藤
さん。正直、佐藤さんの人柄は、彼視点から語られても、最後までなんだかよくわからない人
でした。というか、全然好感持てなかったです。三話目の終盤の彼の行動もひどすぎるし。
何なの、この人、って感じでした。読んでいて、ちょっと桜庭一樹さんの『私の男』の淳悟
を思い出したんですよね。女は退廃的な男に惹かれるってやつでしょうか。といっても、
美里と付き合っていた段階での佐藤さんってダメ男って雰囲気ではなかったのでしょうけど。
でも、彼の本質を知れば知るほど、底知れない得体の知れない怖さがあって、何がしたいのか
よくわからなかったです。本人もわかってなかったのかもしれないですけど。こういう人が、
衝動的に人を殺しちゃったりするんだろうなぁ・・・。しかし、美里は何でこんなわけの
わからない人が好きなんですかね。美里自身も不思議な性格ではありましたけど。あまり
他人に執着しそうにないタイプなので、佐藤さんが出て行った後、あそこまで彼に未練がある
のが意外でした。実は情に厚いタイプだったんですねぇ。三話目の佐藤さんの行動に対しても、
私だったらドン引きすると思うなぁ。それでも、執念で彼を見つけだしたのだから、美里って
すごいと思うな。どうやってあの場所にたどり着いたのかは疑問でしたけど・・・。

まりも君も不思議な男の子でしたね。達観しすぎてて、可愛げがないのかと思えば、子供
っぽいところもあったり、意外に素直な一面もあったり。佐藤さんよりはずっと好感持てたな。
彼がそうなってしまった原因もわかってるし。期待しないで生きて行く術を小さい頃から
身につけざるを得ないって、なんだか切ないです。それでも、心のどこかでは、佐藤さんに
甘えたかったんじゃないのかな・・・。美里が佐藤さんを連れて帰った時の彼の反応が見て
みたかったです。多分、顔色も変わらずに淡々と迎え入れるのでしょうけどね。これからの
三人の生活は一体どうなるのかな。あのまま何もなかったかのように三人の日常が戻って
来るのか、それとも、少しは変化があるのか。それぞれの孤独も、三人一緒にいれば少しは
埋まるんじゃないかなって思うから、これからも一緒に暮らして欲しいです。

かなり歪んでいるけれど、こういう家族の形があってもいいんじゃないのかな、と思いました。
一番変わるべきは佐藤さんだと思いますけどね。もっと、二人を大事に思ってあげて欲しいな。

珍しくSFでもファンタジーでもない現代もの。やっぱり、千早さんはファンタジーよりの作品
の方が合ってる気がしなくもないけど、読ませる力は相変わらずだな、と思いました。