ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大倉崇裕/「夏雷」/祥伝社刊

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大倉崇裕さんの「夏雷」。

ずぶの素人を北アルプスの峻峰に登らせる―。奇妙な依頼を受けた男に仕組まれた危険な罠!
山を捨てた男の誇りと再生を賭けた闘いの行方は!?彼はなぜ槍ヶ岳を目指したのか?新たな
歴史を刻む山岳ミステリーの傑作誕生(紹介文抜粋)。


大倉さんの新作山岳ミステリー。相変わらず、山登りの描写は真に迫っていてリアルです。
山登りを舞台に、これだけ設定変えて書き続けられるって、ある意味すごいと思います。
マンネリに感じるひともいるかもしれないですけど、私はいつも「今回はどんな切り口で
くるのかなー」と思いながら読み初めて、割と毎回いい意味で期待を裏切られる方向の
作品なので、飽きたって感じはないですね。ただ、出てくる登場人物がリンクしてるのか
してないのか毎回わからず読んでるところがちょっと残念なんですけど。今回でいえば、
山岳警備隊の原田と釜谷がそう。どっかで出てきたキャラのはずなんだけど・・・と
思いつつ、確認しないまま読んでしまったのがちょっと残念でした。というわけで、
この記事を書くにあたって自分の記事を再検索・・・とと、思いっきりタイトルでわかる
じゃないか!『生還 山岳捜査官・釜谷亮二』に出てきたキャラだったんですね^^;
しかも、自分の記事読み返してみたら、しっかり原田の名前も。わかった状態で読んだら
もっと原田が出てきたシーンを楽しめたかもしれないのにな^^;

さて、今回の主人公は、大学時代に山岳部を経験したものの、今は一人でしがない便利屋
稼業を営む中年男の倉持。肺炎での入院生活から鬱病を発症し、要介護者となった父親
とは昔から折り合いが悪く、かといって見捨てる訳にもいかず、父親の存在を持て余して
いる。便利屋の前は探偵を生業としていたが、ある事件がきっかけで探偵を引退、街の
便利屋として再スタートするも、生活は厳しい・・・と、そんな孤独な中年男の前に、
一人の依頼人がやってきます。その依頼とは、山に関しては全くの素人の自分と一緒に
北アルプスの山に登って欲しい、というもの。しぶしぶながら承諾した倉持は、山田と
名乗るその男と山登りの為のトレーニングを始め・・・というのがだいたいの流れ。
倉持が、山田と山登りの為のトレーニングをしていく中で、少しづつ心の距離を縮めて
行く過程がとてもよかったのです。山田が倉持に、『すべてが終わったらもう一度自分と
一緒に槍ヶ岳に登って欲しい』と願い出た時は、倉持同様、私も嬉しい気持ちになりました。
だからこそ。その後の展開がショックでショックで。山田の必死の思いが届かなかったことが
何より悲しかった。山田のやろうとしていたことははっきり云えば無謀でしかないし、予定
通り槍ヶ岳に登れていたとしたって、彼の望む結果は得られなかった可能性が高い。それでも、
一度でいいから、倉持とのトレーニングを生かして、自分の足で槍ヶ岳に登って欲しかったな
・・・。

終盤の展開はもうちょっと意外性があったら良かったかなーと思ったんですが、倉持が山田の
為に必死で動く姿がかっこよかったです。静香は、出てきた時から全く好感持てない女だった
ので、本性が出ても特に驚きはなかったですね。倉持がちょっとちょっと可哀そうでしたけど
ね^^;


山田が倉持に山登りを依頼した理由とか、なんとなく腑に落ちない部分もありましたが、
読みやすくて最後までぐいぐい読まされてしまいました。
最後に山田の思いを継いで山に登る決意をした倉持の思いが嬉しかったです。最後まで
やり遂げてほしいな、と思います。