ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

伊坂幸太郎/「残り全部バケーション」/集英社刊

イメージ 1

伊坂幸太郎さんの「残り全部バケーション」。

夫の浮気が原因で離婚する夫婦と、その一人娘。ひょんなことから、「家族解散前の思い出」
として〈岡田〉と名乗る男とドライブすることに──。(第一章「残り全部バケーション」)他、
五章構成の連作集(紹介文抜粋)。


新年二発目の読書記事は伊坂さんの最新作。実はこれの前にもう一冊読んでるんですけど、
記事書く時間がないままに敢え無く返却^^;(ちなみに、鳥飼否宇さんの『妄想探偵』です)
なかなか思うように記事が書けないのが悲しい(T_T)。

と、気を取り直して、本書。裏稼業でコンビを組む岡田と溝口を巡る連作集。一作ごとに全く
違うお話なんですが、岡田、溝口どちらかは必ず登場します。時系列も前後しますが、ラスト
で綺麗に繋がります。さすがに、こういう構成はお見事ですね。主要登場人物も脇役も、みんな
どこかとぼけた味があって、相変わらずキャラ造形が絶妙ですね。岡田の飄々としたキャラは
個人的にかなりお気に入り。小学生時代のエピソードも、達観してるんだか天然なんだか、
子供らしからぬ振る舞いが可笑しかった。スイッチが入ると歯止めが効かなくなる、というのは
問題アリですけどね^^;

裏稼業でコンビを組む岡田と溝口ですが、一話目で二人のコンビは解散してしまいます。
岡田が当たり屋のような裏の仕事をするのが嫌になり、仕事を辞めたいと言い出したことが
原因。相棒である溝口は承知しますが、裏稼業から足を洗うことがそう簡単に行く筈も
なく、上からの圧力により、結局岡田は溝口の前から姿を消されることになります。そのことを、
その後の作品でもずっと溝口は後悔し続けることになります。なんだかんだで、溝口は岡田の
ことをとても気に入っていたのですね。その証拠に、その後誰とコンビを組んでも、ふとした
瞬間に岡田のことを思い出す。そして、不本意な形で岡田を失ったことをずっと悔やんでいる。
岡田も溝口も悪いことをする側の人間ですが、どちらもどこか人が好いというか、憎めない
キャラクターなのが良かったですね。
伊坂さんって、今回のお話もそうですけど、泥棒とか殺し屋とか、犯罪に絡む仕事を生業とした
人物を主役に据えるのが本当にお好きですよね。でも、そういったマイナスイメージの仕事を
していても、キャラ造形の良さで不快どろこか小気味良く読ませてしまうのだから、巧い
なぁ、と感心してしまいます。普通だったら、当たり屋なんて不愉快に思うだけの筈なのにね。
もちろん、岡田も溝口も裏稼業の人間なのだから、怖いところも持っているのだけれどね。

全体的にはコミカルなのだけど、時々ぐっと来るセリフも挟まれていて、何より最後に溝口と
岡田の関係に意外な結末が用意されていたところが良かったです。溝口良かったねぇ~・・・と
しみじみ思いましたもん(笑)。
溝口のような裏稼業の強面男が、スイーツ好きになって、病院の仲間たちとスイーツ談義しちゃう
ところが変に微笑ましくて好きだったな。

最後に粋なはからいをするボスの毒島も良かったですね。まぁ、正直、裏の世界はこんなに甘く
ないと思うけど^^;でも、伊坂ワールドなら、こういうのもアリでしょう。

最後、溝口のスマホに電話して来たのは、もちろん、あの人物だと思いたいですね。
ネット検索してたら、スイーツブログの管理人(サキ)=あの人であると考えるのは無理がある、
みたいな感想を書かれてる方がいらっしゃったのだけど(根拠もいろいろ書かれていて、そう
捉えるのもわからなくはなかったけれども)、私は普通にそう考えたいな、と思いました。
だって、そうじゃなきゃ、この作品自体の面白さや、結末の爽快感が半減しちゃうものね。

『自分の人生、残り全部バケーション』
こういう考えって、面白いですね。そんな風に思えたら、これからの人生楽しくなりそう。
私は結構ネガティブ思考人間なんで(栗原類君程ではないけれど(笑))、そんな風に
思える人になれたらいいな、と思いました。


前回の夜の国のクーパーは設定的にちょっと入りにくい部分もあり、乗り切れなかった
所がありましたが、今回はまさにど真ん中、一番好きなタイプの伊坂作品で、とても楽しめました。
いつかまた、どこかの作品で岡田と溝口に会えたらいいな。