ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

七河迦南/「空耳の森」/東京創元社刊

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七河迦南さんの「空耳の森」。

まだ早い春の日、思い出の山を登るひと組の男女。だが女は途中で足を挫き、つかの間別行動をとった
男を突然の吹雪が襲う。そして、山小屋でひとり動けない女に忍び寄る黒い影―山岳を舞台にした
緊迫のサスペンス「冷たいホットライン」。孤島に置き去りにされた幼い姉弟の運命を描く「アイ
ランド」。ある不良少女にかけられた強盗の冤罪をはらすため、幼なじみの少年探偵が奔走する
「さよならシンデレラ」。居酒屋で男が安楽椅子探偵に遭遇する「晴れたらいいな、あるいは九時
だと遅すぎる(かもしれない)」…『アルバトロスは羽ばたかない』で一躍注目を浴びた鮎川哲也賞
受賞作家の本領発揮。一編一編に凝らされた職人的技巧に感嘆すること間違いなしの、バラエティに
富んだ九編を収める(紹介文抜粋)。


七河さんの三作目。
最初読んでた時は、普通の短篇集だと思ってたんです。一作ごとにちょっとした仕掛けは
あるものの、短篇としての出来で考えると、ちょっと弱いかな、くらいの感想でした。でも、
一作ごとに読み進めて行くうちに、あれ、前のと繋がってる・・・と思える作品が出て来て、
更に読み進めて行くと、もっと前の作品と繋がっているのがわかったりして来て、更に更に
全部読み終えて、『うっひょーーー!全部がこうやって繋がるのかぁぁっ!!』と脱帽したという
・・・。
いやもう、これだけ伏線だらけの作品読むのは本当に久しぶりで、全部読み終えて、人物関係
把握する為にまた最初からパラ読みすること数回・・・。読めば読む程新たな人物関係が見えて
来たりするものだから、また更に読み直し・・・。何度これを繰り返したことか^^;こんなに
読み返した作品は多島斗志之氏の『黒百合』以来かも^^;

しかし、この作品はあれですよ。はっきり言います。この作者の前二作を読んでない方は
読んじゃダメですっ。多分、前二作を読まれてから読まないと、面白さ半減・・・というか、
理解できない部分が多くて、わけわからん、になると思います。
逆に、前二作読まれた方は絶対読んだ方が良いです。面白さ倍増どころか、三倍増くらいの
価値はあるのではないかと。純粋な続編ではなく、スピンオフ的な作品なのは間違いないの
ですが、ファン読者が待ち望んだ情報が隠されていますので(私は一読した限りじゃ読み取れ
なかったんだけど・・・ネットでネタバレ感想読んで、もう一度読み返してわかりました)。
まぁ、とにかく、大変トリッキーな一作でございました。満腹。


では、以下、各短篇の感想。

『冷たいホットライン』
ラストの反転が一番印象的だったのはこの作品かも。いやー、ここまで皮肉な結末だとは思い
ませんでした。正彦が目指していた目標がソレだとは・・・むむぅ。

『アイランド』
ぼくとお姉ちゃんが住む島の正体には目が点。いくら何でも、ひと月も過ごせるものかなぁ・・・
とは思ったんですけどもね。姉弟の辛い現実に胸が痛みました。

『It's only love』
9作の中で、時系列が一番最後に来るのがこの作品なんですね。初読の時は全く意識して
読んでなかったですけど^^;いろんな意味で、ハッピーが詰まった作品です。『あたし』と
彼の関係には、はっとさせられました。彼の好きな人が誰かは、予想がついたけれども。ラスト
一行、彼の言葉を受けて、彼女は何と言ったのでしょうね。

『悲しみの子』
光とクリスティンの関係は割と早い段階で予想がついたのですが、彼らがそれぞれの家庭で
暮らせる理由には驚かされましたね。土地のミステリーだったんですねぇ(笑)。

『さよならシンデレラ』
これもラスト騙されましたねぇ。桜の舞女学院がね。確かに、名前からしてちょっと・・・
なんだけどね^^;マサトのキャラがちょっと中途半端だったかなぁ。最後も皮肉な形で退場
だったしね。いいキャラになりそうだっただけに、ちょっと残念でした。

桜前線
カイエとリコのメールのやり取りの部分、解釈次第で全く違う捉え方が出来るところに
驚かされました。当時気付いていれば、二人のその後の関係も違って来ただろうにね。

『晴れたらいいな、あるいは九時だと遅すぎる(かもしれない)』
男の正体と、彼が気になっている女性の正体がわかった時は嬉しかったです。ここに繋がるのね、と。
彼女が行った場所、私でもすぐピンと来たけどなぁ。っていうか、誰でもそこ以外考えられないと
思うけど。本人にとっては盲点だったんでしょうけどね。

『発音されない文字』
語り手は、あのひと、ですよね。最初、他の作品の語り手と混同してたんです。でも、ある部分が
違うことに気付いて。多分、前二作の内容をよく覚えているひとなら、一発でわかったと思うん
ですけども。あと、中に出て来るKとRの正体も完全に勘違いしてました。他の方のネタバレ記事
見て、なるほど、とわかりました。ラストの『見知った人』の正体もまたしかり。

『空耳の森』
全部の繋がりがわかる作品。時系列的には真ん中へんに当たるお話なのですが。しかし、主人公
のこと、全然覚えてなかったです^^;そんな人いたっけ?って感じなのが痛かったー。もう
一回、前二作を読み返したい、と猛烈に思いました。今度、本屋に行ってパラ読みしよう・・・。
ラストの手旗信号の意味、自分では全くわからなかったのですが、ネタバレ記事にて判明。
ちゃんと読み取れるよう前の作品で伏線が張ってあったのですけどもね。




さてさて、こっから盛大にネタバレ記事になります。未読の方はご注意を!!
自分の為の覚書として、わかる限り人物関係整理しておきます。

















※『アイランド』に出てくる幼い姉弟の姉は武藤茜(『空耳の森』p296)
※『It's only~』のあたし=カイエ=河井恵美子。 
※『悲しみの子』光=クリスティン=ピカ(ピッカ)
※『桜前線』カイエが刺された時に救急車を呼んでくれた母親と一緒にいたのは幼い頃のキラ。
※『晴れたらいいな~』冒頭で松橋警部にジェノグラムを教えているのは春菜。
待ち合わせしていたのは佳音ちゃん。自分が呼ばれたと勘違いした理由は尚子と直の響きが
似ていたから(佳音=小松崎直)。
※『発音されない~』語り手は佳音。最後に待っていてくれた人物は海王さん(初読時、私は違う
人物だと思ってしまった^^;)。
※『空耳の森』語り手は河井恵美子=カイエ。キラ=河崎明。
最後の手旗信号の意味は『H』と『R』だそうです。つまり『H(春菜)』が『Resurrection(復活・
蘇生)した』の意味(P158のいくつかのRから始まる単語を受けて?)。

ちなみに、『It's~』でカナに祝電を打ったのはカイエの同僚である春菜。カナが花束の時でも
泣かなかったのに、祝電の時に泣いたのは、祝電の主が死の床から復活した春菜だったから。
2008年の『空耳~』の最後で復活した春菜は、2011年の『It's~』の時には、
『結婚式に用事が出来て来られない変わりに祝電を打つ』くらい元気になっている。
















うーん、まだまだたくさん見落としてる人物関係がたくさんあると思います。前二作と重ね合せて
読まれると、きっともっといろんなことがわかるんじゃないかな。
手元にないのが返す返すも残念です。思い出せない人物もいっぱいいたしなぁ。

それにしても、自分だけじゃわからない部分も、最近はネットがあるから検索出来て便利だなぁ。
私なんかより、はるかに細かく読み取っている方がいらして、ただただ頭が下がる思いでした。
最後の手旗信号の意味なんて、自分だけじゃ全然わからなかったもの^^;
ネタバレ部分、もし間違っている部分があったら指摘して頂けるとありがたいです。


やー、またしても七河さんにはしてやられた!って感じでした。
ただ、前二作と出版形態が違うので(版元が同じとはいえ)、本書から読んじゃう人って
結構いるんじゃないでしょうか。これって、ミステリ・フロンティアだし。
注意書きひとつないのは、ちょっと不親切だなぁ、と思いました。作者は三作目から読んでも
別に大丈夫と思ってたんですかね。どう考えても問題アリだと思うけどなぁ。この辺り、
辻村作品とちょっと似たところがありますね。お友だちブロガーさんで、二作目より先に
こっちを読んで激しく後悔されている方が実際いらしたので。

とにかく、前二作読まれてから本書に当たられることをお薦め致します。



久しぶりに記事書いたら、えらい長くなっちゃった^^;
ま、でも、こういう構成自体がトリッキーな作品は大好きなので、とても楽しめました。
ミステリ好きなら、読んで損はしないんじゃないかな。