ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

米澤穂信/「リカーシブル」/新潮社刊

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米澤穂信さんの「リカーシブル」。

この町はどこかおかしい。父が失踪し、母の故郷に引越してきた姉ハルカと弟サトル。弟は急に
予知能力を発揮し始め、姉は「タマナヒメ」なる伝説上の女が、この町に実在することを知る――。
血の繋がらない姉と弟が、ほろ苦い家族の過去を乗り越えて田舎町のミステリーに迫る。著者
2年ぶりとなる待望の長編登場(紹介文抜粋)。


米澤さん最新作。帯にボトルネックの感動ふたたび』とか書いてあるので、続編なのか?と
思ったら、全然違ってました。そもそも、ボトルネックって感動作か?はっきり言って、
私個人は全く救いのないラストに、ものすごーーーく気持ちが沈んだ覚えがあるんですが・・・。
あの作品に感動したって方、一体どこに感動出来たのかぜひ教えて頂きたいです(いや、皮肉
とかじゃなくて、本気で教えて欲しいんですって。だって私には感動要素ゼロだったから)。

と、本編と関係ないぼやきはほどほどにして。本書。雰囲気的には、確かに『ボトルネック』に
似ているかも。全体的に暗いトーンで、そこかしこに不穏な空気が漂っていて、なんだか読んで
いて妙に不安な気持ちが駆り立てられる感じが。主人公ハルカ自身がずっとそんな感情でいるから、
それに同調しつつ読んでいたというかね。中学一年のハルカと小学生の弟サトルの姉弟が母親の
郷里に引っ越して来るところから物語は始まります。新しい街で暮らし始めて少し経った頃から、
サトルが予知能力のようなものを発揮し始めます。サトルが予言することが、度々現実になるの
です。不審に思うハルカは、社会科の教師から、この街に伝わる『タマナヒメ』の伝説を知り、
興味を覚えます。タマナヒメは未来がわかる女性だというのです。ハルカは、密かに、サトルは
タマナヒメの生まれ変わりなのではないかと疑い始めるのですが、そこから次第にハルカの周りで
不穏な出来事が続き始めて――っていうのが大筋。

サトルはなぜ母の故郷の街に引っ越して来てから予知能力が備わり始めたのか、が作品のキモ
の部分と言えるでしょうか。うーん、なるほどねぇ~と思いました。きちんとミステリ的な
仕掛けがあるところに感心しました。完全にSF的な読み方してたんで、いい意味で裏切られる
真相だったかな。ただ、『ボトルネック』の時同様、酷く後味は悪かったですが。なんかねー、
一番の悪者は、この街(あるは街の制度?)自体なのかなーって感じがしますね。いや、個人的に
それよりも最悪な印象だったのは、ハルカとサトルの母親でしたけど・・・。中学一年のハルカに
対して、いくら紙一枚のせいで関係が変わったからって、居候分のお金を払えと要求するなんて!!
ハルカが高校生ならまだわかりますけどね。中学一年でバイト探せって(しかも地方の街で)、
絶対無理があるでしょ。なんたる鬼畜母だ、と呆れました。もともと、心の底ではハルカに
対していろいろ思うところがあったんでしょうね。なんかもー、ハルカが懸命に母親に気を
遣ってるのが読んでて痛々しくて仕方なかったです。ハルカも中一にしてはひねた子供だけど、
こういう家庭環境で育ったらそりゃ、そうなっちゃうよなぁ、と思いました。サトルに対して
イライラするのも仕方ないでしょうしね(何も知らないサトルには気の毒だけど^^;)。
でも、なんだかんだで最後はサトルを助ける為に一肌脱いであげるんだから、いいお姉ちゃんです。
ハルカがあんなに嫌っていたサトルを助けるために必死になっているところにじーんとしちゃい
ました。
サトルはいつか、母親のしたことを知る日が来るんでしょうか。でも、そうだとしても、その時
ハルカがサトルを守ってあげたこと気づけば、きっと乗り越えられる筈。ハルカみたいな
しっかり者がそばにいれば、サトルもしっかりした青年に成長できますよね。

米澤さんらしく、結末はとても苦いけれども、最後に姉と弟のしっかりした絆が見えたところに
救われました。『ボトルネック』よりはずっと読後感が良かったです。
米澤さんらしい、ほろ苦ダークな青春ミステリの快作と云えるでしょう。