ミステリ読書録

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永嶋恵美/「なぜ猫は旅をするのか?」/双葉社刊

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永嶋恵美さんの「なぜ猫は旅をするのか?」。

人情と猫で知られる町の大学病院。医師の鳥羽裕太は事務の石倉夏海と、名誉の負傷がきっかけで
親しくなった。車にひかれそうになった子どもを助けて事故に遭ったのだが、それが夏海の甥だった。
事故の衝撃で失われた記憶を求め、裕太は夏海に引っ張られる形で、いっしょに手掛かりを探し
始める。ところが、どうも夏海は「人」と「事件(騒ぎ?)」を呼び寄せる天才のようで…。
恋はゆっくり。謎はすっきり。チャキチャキッと明るい連作ミステリー(紹介文抜粋)。


タイトルと表紙の可愛らしさに惹かれて手に取ってみた一冊。長嶋さんの本自体読むのは三作目
ですが、この方の感性はなかなか好みです。
今回の作品は、猫がたくさんいる街で起きる日常の謎系ミステリ。車に轢かれそうになった
子供を庇って事故で負傷を負った精神科医・鳥羽裕太(とりばゆうた)が主人公。裕太は事故後
病院で目覚めた後、子供を助けたことで周りからヒーロー扱いされるのですが、肝心の事故前後
の記憶がない為、どうにも居心地が悪い。子供を助けたこと自体を覚えていないのですから仕方
がありません。しかも、事故が起きてから、以前の自分と性格が全く変わってしまっていること
にも戸惑いを覚えます。そんな裕太は、事故がきっかけで助けた子供の叔母である夏海と仲良く
なります。夏海はなぜかお年寄りと謎を引き寄せる体質のようで、彼女と一緒にいる裕太まで
不思議な事件に巻き込まれることに。そんな中、裕太を狙う不審な男が・・・というのが大筋。
章立ては月曜日から始まって、一話ごとに一日進み、日曜日が最終話、という裕太と夏海の
一週間を追うという形になっています(タイトルに各曜日が入っています。ただ、六話構成で
最終話は『ウィークエンド』という形になっているので、土日の出来事なのかな?と思いますが)。

基本的にはほのぼの系のお話ですが、裕太の事故に関わることでは少し不穏な雰囲気が
漂います。事故の真相は思ったよりは重くなかったですけど。それでも、邪まな陰謀が関わって
いたことも確かでした。

でも、そこ意外はほんわかした雰囲気で、キャラ造形も良いので楽しく読めました。特に
夏海のキャラがいいですねー。お年寄りを引き寄せるオーラを持っていて、お人好しで
トラブルメイカー。甥っ子に激甘なのも、なんだか他人事とは思えず妙に共感を覚えたり(笑)。
裕太との恋愛部分はもうちょっと進展が欲しかった気もしますが、裕太があげたガラスの猫の
ペンダントを嬉しそうに身に付ける辺り、恋愛感情に素直でとてもかわいらしい女性。
裕太が事故の前と後で性格が変わったという設定には少し首を傾げるところもあったのですけどね。
その性格が変わったということ自体が事故の伏線になっていたりするのかなーとか勘繰っていて、
結果何の伏線でもなかったので拍子抜けしたところがあったので^^;
あと、猫がたくさんいる街、という設定ももう少し全体的に作品に生かされていたら良かった
かなーと、そこはちょっと残念でした。猫が活躍する猫ミステリを期待すると、ちょっと肩透かしを
食らわされる可能性大かも。

でも、ほんわか可愛らしい作品でなかなか良かったです。続編あるなら読んでみたいかなー。

それにしても、猫ってほんとに旅するものなんですかねぇ。有川さんの旅猫リポートでは
あちこち旅してましたけど、あれは飼い主が一緒だった訳で。ひとりで自発的に遠い場所に行こう
とするとかあるのかしら。謎です。