ミステリ読書録

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大倉崇裕/「福家警部補の報告」/東京創元社刊

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大倉崇裕さんの「福家警部補の報告」。

実力派漫画家と辣腕営業部長、同人誌で合作していた二人が迎える不幸な結末(「禁断の筋書」)、
「少女が目撃証言を拒むのはヤクザの一徹に絆されたせいなのか(「少女の沈黙」)、老夫婦が爆弾
で吹き飛ばした三人は銀行を襲う直前だった(「女神の微笑」)──以上三編を収録。『福家警部補
の挨拶』『福家警部補の再訪』に続く、倒叙形式の本格ミステリ第三集。好敵手の登場で新たな展開
の予感?!(紹介文抜粋)


シリーズ第三弾。飄々とした風変わりなキャラクターの福家警部補が大好きなので、久しぶりに
新作が読めて嬉しい限り。今回も倒叙ミステリ形式が三作。
福家さんのキャラが相変わらず面白い。前二作に輪をかけて変人になっているような・・・。
前二作でも意外な趣味や知識を披露していましたが、今回の作品でも、少女まんがオタクだったり、
電動ヘリコプターに詳しかったりと、その多趣味っぷりを遺憾なく発揮しております。

見てくれは到底警察官には見えない可愛らしい風貌なのに、ひとたび事件の捜査に入ると鋭い
推理でじわじわと犯人を追い詰める。このギャップが福家さんの良いところですね。こういう
ひとは絶対敵に回したくないなぁ・・・。でも、仕事仲間としてもちょっと嫌かも・・・
いろんな意味でフォローが大変なんですもの^^;優秀なのは間違いないのだけれど。
まぁ、そういう意味では二岡君という優秀なフォロー役がいつも側にいてくれて、助かって
いるのではないかなぁ。彼の方は大変でしょうが^^;でも、なんだかんだで文句言いつつ、
寝ない食べないで仕事をする福家さんを心配しているのがわかるので、好感持てる青年ですね。
今回何度となく福家さんに貸したお金はきちんと返って来るんでしょうか(苦笑)。

嬉しかったのは、『小鳥を愛した容疑者』で活躍する須藤警部補がちょこちょこと
出て来たこと。あっちでも福家さんがちらっとゲスト出演してたと思うんですけどね。
薄ちゃんが名前だけしか出て来なかったのは残念でしたけどね。


では、以下、各作品の感想。

『禁断の筋書』
少女マンガ家が女性編集者を殺す話。福家さんがかなりの少女マンガオタクであることが
わかります。まさか、同人誌にまで手を出していたとは・・・^^;まぁ、ビジュアルを
考えると妙に納得出来るところもあるんですけど(苦笑)。
女の嫉妬は恐ろしいなぁ・・・。かつて一緒に同人誌を描いていた仲間が一人だけ成功した
からって、あらゆる手段を使ってその成功を潰そうとするなんて・・・。人を呪わば穴二つ、
じゃないですけど、妬み憎しみは回りまわって自分に帰って来るってことなんでしょうね。
マンガ家がじわりじわりと福家警部補に追い詰められる過程は相変わらず読み応えがあって
面白い。ただ、一点、犯行時に書き直したサインの部分は疑問が残りました。いくらマンガ家
として天才だろうが、コピーしたように同じような絵と文字を書くことなんて不可能でしょう。
書き直したサイン本は一体どこへ消えたんでしょうか・・・。

『少女の沈黙』
犯人にどうしたって感情移入して読んでしまいますね。今回ばかりは福家さんも、情にほだされ
ちゃうのかな、と思ったんですが・・・やっぱり、最後は福家さんらしい追い詰め方でした。
でも、犯人の心残りはすでになくなっていたから、警部補が下した決断は間違ってないのだと思う。
犯人もそれで良かったと思ってるんじゃないかな。犯人と福家さんの会話が結構好きでした。

『女神の微笑』
福家警部補最大のライバル現る!?福家さんと大胆に渡り合う犯人の強かさにぞくぞくしました。
楽しんでさえいましたからねぇ。
ラストもこのシリーズでは初めてのオチ。ある意味、犯人の勝利ってことでしょうか。犯人の
残した言葉から、どうやらまたいつか再会することがありそうですね。是非、もう一度対決
させてもらいたいものです。




冷酷にじわじわと犯人を追い詰めるクールなキャラかと思いきや、意外と人情に篤かったりする
優しい面もあったりして、福家警部補って、本当にいろんな顔を持ったキャラクターだと思います。
警部補と会った後でラッキーが舞い込む人が多いっていうのも、何か頷けるものがありますね。
なんだか、話すと得した気分になるひとなんですよね。いつも一緒にいるひとは損をするような
気もしますが(苦笑)。
今回もとっても楽しめました。福家ファンとして、まだまだ続編を希望したいですね。