ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

深水黎一郎/「美人薄命」/双葉社刊

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深水黎一郎さんの「美人薄命」。

 

孤独に暮らす老婆と出会った、大学生の総司。家族を失い、片方の目の視力を失い、
貧しい生活を送る老婆は、将来を約束していた人と死に別れる前日のことを語り
始める。残酷な運命によって引き裂かれた男との話には、総司の人生をも変える、
ある秘密が隠されていた―(紹介文抜粋)。

 

深水さん最新作。
読んでから大分経ってしまい、手元にもう本がない為若干うろ覚え状態なのです
が^^;
読みやすいし、とても面白かったです。今までの深水作品とは大分雰囲気が
違ってます。
今回は芸術的要素は全く入ってません。大学の単位の為に、ボランティアで地域
の老人たちにお弁当配りをすることになった大学生が主人公。いい加減な性格
だった主人公の総司が、お弁当配りをして行くうちに、少しづつ成長して行く
ところがなかなか爽やかです。
始めと終わりでは総司の性格が正反対ってくらいに違っているので、さすがに
ちょっとやりすぎ感を覚えなくもなかったですが・・・^^;特に終盤、ある男
の申し出に対する総司の返答には、あまりの好い人っぷりに引きそうになった
くらいです^^;それまでの言動から考えると、何か裏があるんじゃないかって
思っちゃうくらい。今時、こんな絵に描いたような好青年が存在するとは・・・!!
総司はほんとに、最初から考えるとあり得ない位いい男になったと思う。
そりゃー、○○○さんだって恋しちゃうよねぇ。まぁ、彼女が恋したのは最初の段階
からだった訳で、彼女に人を見る目があったというべきなのかもしれないですが。

 

最後読むまで、ミステリ要素皆無だなーと思ってたんですが、どっこい、そこは
深水さん。
しっかりミステリ要素は隠されておりました。いやまさか、冒頭のあの部分が
ああいう風に効いてくるとは。冒頭のカエ婆さんの戦時中のエピソードは、姑やら
夫からのあまりの理不尽な仕打ちに、胸が痛いやら腹立たしいやらで、読むのが
ちょっとつらかったところもあったのですが・・・まさかまさかの返しに唖然。
カエ婆さんの涙ぐましい努力と奥ゆかしさに完全にノックアウト状態のワタクシ
でした。読み終えて、感動で胸がいっぱいになりましたもの。
特に、総司がある場所に行って、ある人物の真意を確認したところ。出来すぎ感は
確かにあるけれども、それでも救われた気持ちになりました。本人にその事実を
伝えることが出来なかったことが悲しかったけれど。

 

総司とカエ婆さんのやり取りがとても楽しかった。シリアスとユーモアがいい具合に
配合されているところが秀逸ですね。冒頭の、若かりし頃の真面目なカエ婆さんが、
どういう人生を歩んだら現在のカエ婆さんのような性格になっちゃうのか、そこは
ちょっと不思議だったんですけどね(なにせ、性格が全く違っているので^^;)。
でも、最後まで読むと納得出来ました。

 

残念だったのは、途中で意味深に出て来た『杉村さんに気をつけて』の伏線が何の
意味もなかったところと、同級生の沙織のキャラとエピソードが中途半端だった
ところ。沙織は、しょうもないビッチだと判明した直後に作品からあっさり退場
しちゃって拍子抜け。もっと総司と何かしらの絡みがあってからだったらいいん
ですが・・・彼女が出てきた意味があまりよくわからなかったです。
あと、カエ婆さんがしきりに総司に『雨が止んだ直後に(部屋に)来い』と言った
意味もよくわからないままでしたねぇ。
ちょっと、たたまれない伏線が多かったのは気になりましたが、全体的には
ストーリー的にもミステリ的にも読ませる良作だと言っていいと思います。

 

タイトルから想像すると大きく予想を裏切られる話ではありましたけどね^^;
副題はいちいち『老婆』の語呂合わせになってるし(オヤジギャグ?(笑))。

 

そういえば、総司が乗っているバイク(ブロンコ)のことを相方に聞いたら、
『結構マニアックなバイク』だそうで、作者はかなりのバイク好きなのではないかと
言っておりました。へぇ。

 

老人福祉問題をテーマにしながら、しっかりミステリ要素も入っているし、何より
純愛小説として読めるところが気に入りました。オススメです。