ミステリ読書録

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森見登美彦/「聖なる怠け者の冒険」/朝日新聞出版刊

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森見登美彦さんの「聖なる怠け者の冒険」。

一年ほど前からそいつは京都の街に現れた。虫喰い穴のあいた旧制高校のマントに身を包み、
かわいい狸のお面をつけ、困っている人々を次々と助ける、その名は「ぽんぽこ仮面」。彼が跡継ぎ
に目をつけたのが、仕事が終われば独身寮で缶ビールを飲みながら「将来お嫁さんを持ったら実現
したいことリスト」を改訂して夜更かしをすることが唯一の趣味である、社会人二年目の小和田君。
当然、小和田君は必死に断るのだが…。宵山で賑やかな京都を舞台に、ここから果てしなく長い
冒険が始まる(紹介文抜粋)。


我らがモリミー最新作。京都・宵山を舞台に繰り広げられるめくるめくモリミーワールド。
久しぶりに堪能致しました。ただ、同じく宵山を舞台にした宵山万華鏡』の時同様、結構読む
のに時間かかったんですよね。どうも、集中して物語に入り込めないというか、なんだか読み
辛い感じがあって。いかにもモリミー!って感じの世界観なので、普通ならツボに来る筈
なのだけれど・・・。一冊読み終わるのに、一週間くらいかかってしまった^^;

主人公の小和田君は、人生をいかに怠けて過ごすか、に心血を注ぐような、怠惰な青年。珍しく
社会人なんですねー。しかも化学企業の研究者。研究者なのに、そんなに怠け者で大丈夫なのか?
と思わなくもなかったですが(苦笑)。でも、職場ではそれなりにきちんと仕事をしている
ようです(多分)。彼の怠け者っぷりが発揮されるのは、週末のお休み。お休みの日をいかに
のんびりぐうたらに過ごすかを真剣に悩むような怠け者青年です。でも、そんな怠け者小和田君
が、一年前から京都の町を賑わしているぽんぽこ仮面と出会ったことで、とんでもない土曜日を
過ごすはめになる・・・というお話(はしょりすぎか?笑)。小和田君最大の受難は、ぽんぽこ
仮面から、二代目を継ぐべき者として白羽の矢を立てられてしまったことですね。まぁ、彼に
目をつけた理由はそれなりにあるのですけれども。

ところで、そもそもぽんぽこ仮面とは何ぞや?と疑問に思われる方に説明しておきますと、
狸のお面をつけ、虫食い穴のあいた旧制高校のマントに身をつつんで、京都の町で困った人々を
見つけては助けて回る、正義の味方です。とても良いひとなのは確かなのだけれど、今回は
なぜかへんてこな組織に付け狙われて災難に遭いまくるという、なんだか不毛な正義のヒーロー
です。人助けをして良いことをしているのに、今回助けた人たちからこぞって裏切られるという、
悲劇のヒーローでもあります。なんだか可哀想だよなぁ、と思いながら読んでましたけども。
まぁ、いつものモリミー調なので、さほど悲痛な印象も受けないのですけれどね(苦笑)。

脇を固めるキャラたちも個性派ばかり。小和田君の職場の先輩である恩田先輩と恋人の桃木
さんは、小和田君と正反対で『いかに充実した土曜日を過ごすか』に心血を注ぐカップル。こと
あるごとに、小和田君を彼らの充実した土曜日プランに呼びこもうとするも、毎度惨敗。
小和田君の徹底した怠け者っぷりには誰も太刀打ち出来ないのでした(笑)。
小和田君の職場の所長は、スキンヘッドの強面顔。一見悪人にしか見えない風貌ですが、実は・・・
という意外な二面性を持つ中年男。人類の平和を誰よりも愛する善人なのでした。
ぽんぽこ仮面の正体を探る浦本氏は、世界でもっとも怠け者の探偵。全く行動をしないのに、
なぜか事件は解決、そして次の事件が途切れることなく舞い込んで来る、という、何とも変わった
能力を持つ探偵。こういう探偵キャラは前代未聞なのじゃないかしらん。その浦本探偵の週末だけ
の助手が玉川さん。究極の方向音痴で、探偵助手の仕事への意欲には満ち溢れているものの、大抵が
失敗してしまうという、ちょっぴりとぼけた女の子。怠け者の小和田君とのかみ合わない会話が
面白かったです。小和田君にかかると、誰でもかみ合わない会話になっちゃうんですけどね(苦笑)。
あとは、アルパカ顔の五代目のキャラも面白かったですね。アルパカにしか見えない顔って
一体どんなだよ(笑)。

参加者同士でひたすら蕎麦を食べまくる『無限蕎麦』なる行事の描写はいかにもモリミーらしかった
ですね。蕎麦は好きだけど、こんな行事に参加したら、多分当分食べたくなくなるだろうな^^;

最後はドタバタで、なし崩し的な終わり方と思わなくもなかったけど、まぁ、その辺もモリミー
らしいと云えるのかな。読みづらさは多少あったけれど、楽しめたことも確かです。
やっぱり、モリミーは京都を舞台にした作品が似合ってますね。
今回の作品は、先に挙げた宵山万華鏡』と、有頂天家族とのリンクがちょこちょこある
ようです。私はどっちの内容もほぼ頭から抜けちゃってるんで、どこがどう、とかはっきり
言えないのですが^^;まぁ、宵山が舞台で、狸が出て来るんだから、そりゃリンクはある
でしょうねぇ。

そういえば、本書は朝日新聞に連載されたものだそうなんですが、単行本化に当たって、
ほぼすべてを書き直したそうです。新聞連載の作品は一体どんな内容だったんですかねぇ。
本書と同時に、新聞連載時についていたイラストをまとめたイラスト集的な作品が刊行されて
いるそうなのですが、そっちに本文は載っていないのかなぁ。この味のあるイラストだけでも
見てみたいですけどね。そっちは図書館入荷してないのかなぁ。


私はどちらかというと、お休みの日は大抵どこかに出かけてるんですけど、この間久しぶりに
一日一歩も外に出ない休日というのがありまして。とにかくやたらに眠くて、なんだかひたすら
寝て終わっちゃったんですけどね。たまにはこういう日があってもいいなーとしみじみ思いましたね。
小和田君が怠惰に拘る気持ちがちょっとわかったような・・・(笑)。まぁ、毎回休みの度にそれだと、
人間としてダメになって行く気がしないでもないですけどね(苦笑)。
怠け者も、ほどほどがいいのかもしれません(笑)。